成田空港の隣にある航空科学博物館に、新たな展示品として、真っ赤な空港用化学消防車が加わりました。この車両、成田空港で初めて起きたジェット機の転覆炎上事故にも出動した実績が。

どんなクルマなのか見てきました。

成田市消防が使用していた「ツワモノ」が保存・展示へ

 成田空港にほど近い千葉県芝山町にある航空科学博物館において、2022年5月13日(金)、空港用化学消防車の譲渡式が行われました。

 この車両は、2004(平成16)年3月から2022年3月まで成田市消防本部三里塚消防署で使用されていたもので、説明によると自治体消防に配備されていた航空機火災対応用の消防車としては唯一のものだったとのこと。そこで、譲渡式に際して車内含め見てきました。

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千葉県芝山町の航空科学博物館で展示が始まった空港用大化学消防車(2022年5月15日、柘植優介撮影)。

 今回、航空科学博物館で第二の人生を歩むことになった消防車は、正式には「化学消防ポンプ自動車(大II型)」といいます。

 空港ならびにその周辺地域における防災をおもな目的とし、航空機災害に対処するため特殊な消火活動を行えるのが特徴で、そのために運転席(キャビン)上部には放水用の大型ターレットを搭載するほか、タイヤやボディなど車体下部を炎や熱から守るために装備する「アンダートラックノズル」と呼ばれる水噴霧装置を装備しています。

 消火に使用するために搭載する水の容量は最大約2500L、消火剤の量は500Lで、これらにより車両総重量は約22.3tにもなりますが、搭載する出力427kw(581馬力)、排気量1万5240ccのコマツ製「6D140」水冷4サイクル6気筒ディーゼルエンジンにより、停止状態から35秒以内で速度80km/hまで達することが可能な加速性能(ダッシュ力)を有しており、最高速度は100km/h以上を誇ります。

 キャビンには5名が乗車可能で、航空機火災に対応するため耐熱性に優れたボディになっているほか、前出の放水用大型ターレットは車内から遠隔操作することができます。

公道走行を考慮し、車体サイズはあえて規定内に

 まさしく普段、街中で見かける一般的な消防車とは明らかに異なる元成田市消防本部の空港用化学消防車ですが、成田国際空港株式会社(NAA)を始め、各地の航空局などに配備されている「空港構内」専用の消防車とは異なる、自治体消防が運用するからこそのポイントもありました。

 たとえば車体サイズは、全長11.63m、全幅2.495m、全高3.5mです。このサイズは道路法の車両制限令に適合する大きさに収まっています。

車両制限令では、長さ12.0m、幅2.5m、高さ3.8m、この値をわずかでも超える車両が公道を走る場合、事前に道路管理者へ申請することが必要とされています。

「成田のレガシー」唯一無二の消防車が航空科学博物館へ 公道走るためサイズ規定内
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成田空港の近傍にある航空科学博物館(2022年5月15日、柘植優介撮影)。

 空港に配備されている化学消防車の場合、構内専用のため、より大きなボディであっても運用に問題はありません。しかし、自治体消防の場合、公道での移動が前提です。ゆえに前出の車両制限令の制限数値以内に収めることが求められたのです。

 ちなみに、成田空港を始めとして空港消防に配備されている化学消防車の中にも、空港の敷地外で起きた航空機事故に出動・対処できるよう、車両制限令の規定サイズに収めた消防車が一部配備されています。

 このように成田市消防本部で約18年にわたり、成田空港およびその周辺地域の安全を守るべく活動してきた空港用化学消防車ですが、その間、航空機にエンジントラブルなどが発生し、緊急着陸に至った際などに、万一に備えるための「警戒出動」に262回、火災には市内の一般的な火事含め13回出動したといいます。

 この13回のなかには、2009(平成21)年3月23日に成田空港で起きたフェデラルエクスプレスMD11F型転覆炎上事故も含まれるとのこと。このときは、成田市消防本部や、成田空港消防、近隣の消防本部からの応援などで合計48台の消防車が出動し対応にあたったそうですが、そのとき成田市消防本部の車両群における活動の中心的存在になったとのことでした。

唯一無二の存在ゆえ、廃車免れ展示へ

 いうなれば、日本屈指の大規模空港が所在する自治体の唯一無二の消防車であったともいえる、元成田市消防本部の空港用化学消防車。通常の消防車であれば、用途廃止で退役した場合は解体されてしまうところ、その特徴的なフォルムと性能から航空科学博物館での保存・展示と相成りました。

 これについては、車両説明にあたった成田市消防本部の青野 穣消防長も「職員らにとって自慢の車両であった同車が廃車になるのは非常に残念だと考えていたところ、このようなお話を頂いた」「空港周辺の防災のレガシーとして第二の人生ならぬ車生を歩むことになったことは、職員一同感謝している」と述べていました。

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譲渡式においてテープカットを行った関係者一同。向かって左から航空科学博物館の椎名明彦理事長、芝山町の麻生孝之町長、成田市の小泉一成市長、成田市消防本部の青野 穣消防長、航空科学博物館の郡司文夫館長(2022年5月15日、柘植優介撮影)。

 成田市の小泉一成市長も「運用を終えた消防車は、通常なら廃車処理されるため、二度と見ることができなくなるものの、日本の自治体消防で唯一の存在であった本車両が、退役後も活躍の場を変えて展示されるのは非常に名誉なこと」とコメント。

 芝山町長の麻生孝之町長も「芝山町は現在、航空科学博物館の周辺地域を『スカイパーク芝山』と命名し、観光エリアとして盛り上げていこうとしているなか、化学消防車を展示してもらえるのはこの地域の集客にプラスとなる」と述べていました。

 航空科学博物館には、飛行機やヘリコプターだけでなく、運航を支える空港監視レーダーやトーイングカー(牽引車)なども展示されています。自治体消防では日本唯一の車両として運用されていた元成田市消防本部の化学消防車が加わったことで、航空科学博物館は、いっそう展示物に幅が広がったといえるようです。


※一部修正しました(5月17日10時11分)。

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