飛行機とヘリコプターの両方の性格を持つ異形の航空機V-22「オスプレイ」。日本では危険な乗りものというイメージを持つ人も多いようですが、では本当はどうなのか。
アメリカ海兵隊を皮切りに同空軍、そして同海軍にも採用されたV-22「オスプレイ」。陸上自衛隊でも運用が始まったこの機体、飛行機とヘリコプター(回転翼機)の両方の性格を持ちます。それまでの航空機と、乗り心地などはどう違うのでしょうか。
揚陸艦の飛行甲板に着艦したアメリカ海兵隊のV-22「オスプレイ」(画像:アメリカ海軍)。
筆者(武若雅哉:軍事フォトライター)がオスプレイに乗ったのは、アメリカ西海岸カリフォルニア州サンディエゴ郡にあるキャンプ・ペンデルトンという海兵隊の基地でのこと。この基地には第1海兵遠征軍や第1海兵師団などのほかに、いわゆる「ブート・キャンプ」と呼ばれる新兵教育隊もあります。
筆者は、ここの広大な敷地の一角にある飛行場から、カリフォルニア沖を航行するサンアントニオ級ドック型輸送揚陸艦「サマセット」へと移動する際に乗りました。ちなみに機体は、アメリカ海兵隊第3海兵航空団第39海兵航空群の第164海兵中型ティルトローター飛行隊という部隊に所属するMV-22Bです。
フライト当日、飛行場に集合した筆者らは、まず事前説明を受けました。そこでは万一の不時着に備えたライフジャケットや酸素ボンベの取り扱い方を教わります。そして搭乗開始時刻になると、待機している「オスプレイ」まで同乗者らは一列に並んで近寄ります。
すでに「オスプレイ」は暖気運転を終えており、いつでも飛び立てる状態。乗り込むと、座席には4点ベルトが備えられていました。なお、これが必要な意味は離陸後に体感することになります。
まるでジェットコースターのようなGも奥から詰めて座席に腰を下ろすのですが、同乗者用のシートは胴体内部の壁面に沿って設置されているため、筆者らは機体中央を向く形で横向きに座りました。
なお「オスプレイ」のシートは、陸上自衛隊が体験搭乗で飛ばすCH-47J/JA輸送ヘリやUH-1J多用途ヘリなどの、いわゆるまっ平らなシートとは異なり、お尻がスッポリと収まる形状でした。まるでスポーツカーのバケットシートのような感覚です。

キャンプ・ペンデルトン内の飛行場から「オスプレイ」に乗り込む場面。フライトエンジニアが敬礼して陸上自衛隊の高官を迎える(武若雅哉撮影)。
準備を整え滑走路までタキシングするアメリカ海兵隊のMV-22「オスプレイ」。離陸するときの感じはヘリコプターによく似たものでした。なんの違和感もなく高度と速度を上げていきます。
そのようななか、ある瞬間、機内に「グーン」という聞きなれない音が発生したかと思うと、まるでジェットコースターの最初の加速のようなGを感じたのです。
そこから機体はどんどんとスピードを上げていきますが、ここからはまるで旅客機に乗っているかのような、振動の少ない乗り心地へと変化したのを覚えています。
こうして、あっという間に洋上へと飛んだ「オスプレイ」。目標である揚陸艦「サマセット」を確認すると、今度は急減速を行い、その勢いで乗員の体が機体の前方へ傾きました。この時、オスプレイは着艦するためにエンジンナセルを垂直に向けヘリコプターモードへと切り替わっていたのです。
このエンジンナセルの切り替えは体感的に10秒も掛かっていませんでした。気が付けばナセルが動いて飛行モードが切り替わっているのです。
こうして極めてスムーズに揚陸艦「サマセット」の飛行甲板へと着艦したオスプレイ。同艦での取材を終えると、再び同じ機体に乗り込みキャンプ・ペンデルトンへと戻っていきました。
海兵隊員が「オスプレイ」乗務を怖がるワケ実は、海兵隊員のなかにも「オスプレイ」に乗るのは怖いという者がいます。ただ、詳しく話を聞くと、ヘリコプターモードから固定翼モードへの切り替えの瞬間にある急加速と急減速が怖いというだけで、飛んでいる分には全く怖さを感じないということでした。
ちなみに「怖い」と答えた海兵隊員の多くは、そろってジェットコースターも苦手とのこと。

飛行中の「オスプレイ」機内で撮影した筆者の自撮り(武若雅哉撮影)。
確かに最初のうちは、その挙動に驚くかもしれませんが、慣れてしまえば全く何ということはないのが「オスプレイ」の特徴です。実際に乗ってみて、「オスプレイ」は離陸から着陸まで非常に安定して飛行する安全な乗りものであるということが実感できました。
2022年5月に行われた富士総合火力演習にも、ついに陸上自衛隊仕様の「オスプレイ」が登場しました。そのうち、CH-47J/JAやUH-1Jなどと同じように体験飛行も行うようになるでしょう。皆が陸自の「オスプレイ」に乗るようになれば、日本でのイメージも変わるのではないでしょうか。