プラモデルを作らずに、箱を積んでおくだけという「積んどくモデラー」。彼らはどうプラモデルを楽しむのでしょうか。

“積んどく派”がグッときそうな演出がなされた南極観測船「宗谷」の新型プラモデルから、楽しみ方を探ります。

「積んどく派」向け? 南極観測船「宗谷」の新型プラモデル

 プラモデルマニアの中には、せっせと新しいプラモデルを買い込んでくるものの、ほとんど作らずに積んでおくだけの「積んどくモデラー」が一定数います。
 
 作りもしないのに、彼らはどうプラモデルを楽しんでいるのか。2022年6月にハセガワから発売予定の「1/350 南極観測船 宗谷 “第二次南極観測隊 スーパーディテール”」は、その一端を垣間見ることができる商品かもしれません。

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プラモデルを買っても箱を積んでおくだけという人は少なくない(アルタープレス撮影)。

 現在は東京・船の科学館に保存展示されている南極観測船「宗谷」は、日本初の南極観測隊が乗り込んだ船として有名ですが、その道のりは波乱万丈です。1938年にソビエト連邦から発注されて民間貨物船として誕生しましたが、海軍からの要請でソ連には引き渡さないことになります。その後、戦前から戦中にかけては海軍に組み込まれ、戦地で損傷したりもしました。戦後、GHQから日本に返還された宗谷は補給船から観測船へと大改造を施されます。1956年の第一次観測から1961年の第六次観測まで、南極へ出発するたびに大幅な改造を受けてきました。

 このように幾度にもわたる改造を施された艦船ほど、プラモデル化に相応しいモチーフはありません。すべてのバージョンに共通するベース部分を転用しつつ、パーツを変更することで別バージョンの宗谷のプラモデルとして何度も販売できるからです。

プラモデルの金型を作るには多大なコストがかかるので、同じ金型から複数の製品を作れた方がいいのです。

 ハセガワ製1/350宗谷のプラモデルは第一次観測、第二次観測、第三次観測時の姿を、それぞれ細部パーツを変えながら再現してきました。そして、6月に発売される“第二次南極観測隊 スーパーディテール”は、従来の第二次観測隊バージョンの宗谷のキットに、これまでキット本体とは別売りされていた「エッチングパーツ」をセットしたものです。

 このエッチングパーツが、“積んどく派”にとってニンマリするような要素だと思うのです。

エッチングパーツで再現されているのは?

 エッチングパーツの「エッチング」とは、金属の腐食性を利用して、必要なところ以外を除去する加工技術のこと。非常に細かな成型ができるので、プリント基板などにも使われている技術です。一方、プラモデルはインジェクション成型といって、金属でつくった型に溶かしたプラスティックを圧力で流し込んでパーツを作ります。インジェクション成型でも細かなパーツは作れるのですが、1/350スケールの艦船の手すりなど、繊細すぎる箇所には樹脂が流れません。仮に成型できたとしても、薄くて細いパーツは素材の性質上、折れやすくなってしまいます。それが、プラモデルの弱点です。

 そんなわけで、各メーカーはエッチング加工された金属板でインジェクション成型では不可能な細密なパーツを作って、徹底的に細かく作りこみたいマニアのニーズに応えているわけです。この“宗谷 第二次南極観測隊 スーパーディテール”の場合、手すり、はしご、救助網、搭載されるヘリコプターのローターなどが極薄のエッチングパーツとして付属します。

 では、エッチングパーツを使わないと宗谷は完成しないのかというと、そんなことはありません。プラ製のパーツをプラモデル用接着剤で組み立てていくだけで、宗谷の歩んできた壮大な歴史を指先で実感できます。

「積んどくモデラー」の楽しみ方 プラモ買っても作らない派がグッとくるポイントとは
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“宗谷 第二次南極観測隊 スーパーディテール”に付属するエッチングパーツ。ほとんどは手すりなど本体に使うパーツだが、よく見ると乗組員や犬猫のシルエットも(画像:ハセガワ)。

 むしろ、細かなエッチングパーツを切り抜いて折り曲げて、瞬間接着剤で取りつけていくのは、いくら細密なディテール再現ができるといっても、無駄な手間と感じるユーザーも多いことでしょう。しかし、エッチングパーツでないと不可能ではないかと思わせる魅力が、この“宗谷 第二次南極観測隊 スーパーディテール”にはあるのです。

“作る前”から全てわかるのだ!

 このキットに付属するエッチングパーツをよく見ると、宗谷の乗組員が10人、刻印されています。切り取って甲板に立たせれば、宗谷のプラモデルに生活感が出るでしょう。また、宗谷に乗っていた犬12匹と飼い猫の「たけし」も彫られています。実際に宗谷には、犬ぞりを引かせるための樺太犬やペットとして猫も乗っていました。

 このように、船にまつわるさまざまな情報をパーツとして同梱することで、キットの持つ世界観を一挙に広げているのです。もちろん、作るか作らないかは別として。

しかし冒頭で紹介した“積んどくモデラー”には、ちょっと響くポイントになりそうです。

 このようなタイプのモデラーは、箱を開けて中身を眺めては、そのキットのパーツの出来栄えに感嘆したり、製作するときの工程、完成した時の満足感を想像したりして楽しみます。これは、パッケージ商品としてのプラモデルを楽しむひとつのやり方でもあり、そこでは、キットそのものがどれぐらい豊かな世界観をパッケージしているかがキモになるのです。この商品独自の世界観は、“積んどくモデラー”以外のユーザーが店頭で商品を見た時に、直感的に魅力を感じる大きな要素ともなります。

「積んどくモデラー」の楽しみ方 プラモ買っても作らない派がグッとくるポイントとは
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プラモデルは“キットの完成度”も大きなポイントだ(アルタープレス撮影)。

 1956年11月8日、宗谷が初代南極観測船として初めて出港した時には、晴海埠頭に1万人もの人々が見送りに駆けつけたそうです。宗谷が何度も改造され、いま無事に船の科学館で平和な余生を送れているのは、戦前~戦中を通してたくさんの人たちが関わっていたおかげです。

 そのような思いをめぐらせたうえで、もう一度キットを見てみると、エッチングパーツで乗組員や動物が付属することによって、“宗谷のプラモデル”という商品に、温かい命が宿ってくるような気がしてきます。

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