2022年、ロシアのウクライナ侵攻に端を発して、安全保障の分野もいっそう注目集めるようになりました。そういった世相のなか、筆者が独断と偏見で選ぶ今年話題になった戦闘機3選。

なんと番外編もあるといいます。

韓国が独自開発した初めての戦闘機

 2022年もあとわずかとなりました。今年は昨年(2021年)に引き続き新型コロナウイルス流行の影響が残りましたが、それよりも重大な衝撃を世界に与えたのは、2月に発生したロシアによるウクライナ侵攻でしょう。これにより世界各国で経済・安全保証の分野において大転換が図られるようになり、それは軍用機の分野にも波及しました。

 そんな波乱含みだった2022年、戦闘機の分野における「話題性」という判断基準でベスト3を独自に決めていきたいと思います。

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韓国国産の戦闘機KF-21「ポラメ」(画像:KAI)。

 第3位は韓国のKF-21「ポラメ」です。この機体は2022年現在、世界各国が開発にしのぎを削る次世代戦闘機のなかでも、初飛行まで到達した最も新しい戦闘機といえるものです。

 試作1号機が初飛行したのは、今年の7月19日。ただ、機体の評価は日本国内でも分かれています。その一番の理由は“4.5世代”戦闘機という性能目標でしょう。現在、日本をはじめ、世界中で採用・配備が進むステルス戦闘機F-35「ライトニングII」は第5世代戦闘機に分類されます。

それと比べると、KF-21の4.5世代は一段低いものであり、性能面で妥協したともとれます。

 しかし、最新のF-35はアメリカから輸入する形になりますが、KF-21は韓国が主体(エンジンなど外国機器や技術も一部利用)で生み出したオリジナル機です。予算の多くは韓国国内の企業にとって利益となるものであり、開発・生産によって自国企業を育成することにも繋がります。また、自国が中心となった開発計画のため、海外への輸出や派生モデルの開発も可能です。

 性能面についても、国内産業への配慮とは別の理由があります。KF-21は韓国空軍が現在運用するF-5「タイガーII」やF-4「ファントムII」といった旧式戦闘機を更新するための機体です。しかし、これらは老朽化からくる事故も発生しており、その更新は急務となっているのが現状です。その部分を鑑みると、4.5世代という性能目標は、高性能化を目指して開発期間が延びることを避けるための措置ともいえます。

 また、その後の将来的なアップグレード型の開発も見据えており、最初の4.5世代戦闘機の生産が軌道に乗れば、将来的にはそれを足がかりとして第5世代戦闘機クラスに改良した派生型が開発される可能性もあります。KF-21の評価については、その機体性能だけでなく、韓国の空軍と防衛産業の今後の動きも見て判断すべきでしょう。

ウクライナ軍の士気高揚に貢献したロシア機

 第2位は実戦での活躍によって再評価された機体、ロシアのMiG-29「フルクラム」です。1977年に初飛行し、1982年から量産されて、その後はソビエト連邦だけでなく、当時の東側陣営の多くの国々に輸出されました。

 しかし、このMiG-29は前線戦闘機として運用することを想定し、簡素な小型戦闘機として開発されたため、同時期に開発されたSu-27「フランカー」よりも兵器や燃料の搭載量で劣っていました。このため、ソビエト連邦崩壊後のロシア軍ではSu-27とその後継モデル(Su-30~35)が主力となり、海外輸出でもMiG-29のセールスは低調となっています。いくつかの後継機が開発されましたが、最新のMiG-35もロシア空軍で少数が採用されたのみで終わっています。

「キエフの幽霊」いたの? 韓国産“4.5世代機”ってどうなの? 22年話題になった戦闘機3選 噂の真相
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ウクライナ空軍のMiG-29「フルクラム」。ウクライナ空軍のMiG-29はモザイクパターンの迷彩塗装が施されている(画像:アメリカ空軍)。

 ある意味で、過去の機体になりつつあったMiG-29ですが、2022年のロシアによるウクライナ侵攻時のある出来事によって、再び脚光を浴びることになりました。それはウクライナ空軍でのこの戦闘機の勇戦と、それが元になった「キエフの幽霊」の存在です。

「キエフの幽霊」はウクライナ空軍のとあるMiG-29パイロットに付けられたあだ名です。この名前は「開戦初日の30時間で6機のロシア軍戦闘機を撃墜」という勇ましいエピソードとセットでSNSを中心に世界中へと拡散しました。相対的な戦力で圧倒的に劣勢だったウクライナ軍にとって、「キエフの幽霊」はロシアに対する反抗の象徴となったといえるでしょう。

 ただ、時間が経つにつれ、これが都市伝説の類であることが露呈します。最終的にウクライナ軍自体も「キエフの幽霊」が実在しないパイロットであることを認めましたが、開戦初期のメディア戦略では当のウクライナ側もこれを積極的に利用しており、その存在はMiG-29と共に世界中に知れ渡ることになりました。

初の来日で飛行場周辺はお祭り状態

 1位は日本飛来によって国内の航空機ファンを沸き立たせた機体としてNATO(北大西洋条約機構)に加盟するイギリス、ドイツ、イタリア、スペインの4か国が共同開発した戦闘機「ユーロファイター」を挙げましょう。

 この機体は開発国を中心にヨーロッパ地域の複数の国で採用。ほかにもサウジアラビア、オマーン、クウェートといった中東地域の国々へ輸出されています。一方で、アジア地域でこの機体を配備している国は存在しておらず、それゆえか日本国内での知名度はイマイチな感じでした。しかし、それを一変させる出来事が今年起こりました。

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日本に初飛来したドイツ空軍のユーロファイター戦闘機と、航空自衛隊のF-2戦闘機(画像:航空自衛隊)。

 ドイツ空軍は大規模展開訓練として「ラピッド・パシフィック2022」を実施し、6機のユーロファイターを中心とした部隊をアジア地域に派遣しました。そして、その訓練の最後の行程として3機のユーロファイターが茨城県の航空自衛隊百里基地まで飛来したのです。

 このとき、3機のうちの1機をドイツ空軍トップであるゲルハルツ空軍総監が自ら操縦して来日。日本側も航空自衛隊トップを務める井筒航空幕僚長がF-2戦闘機の複座型の後席に乗って出迎え、航空自衛隊とドイツ空軍のそれぞれのトップが戦闘機に乗ってランデブーを実施するという特別なものになりました。

 ドイツ空軍の訪問期間はわずか3日間でしたが、受け入れ場所となった百里基地の周辺には熱心な航空ファンたちがユーロファイターを撮影しようと集まりました。ドイツ空軍側もその歓迎を嬉しく思ったのか、最終日の日本出発の際には、サービス満点の離陸後の急上昇と、編隊飛行による航過飛行を披露。

今回の訪日は、ドイツ空軍と航空自衛隊、それに航空機ファンにとっても忘れられない出来事となりました。

番外編は世界的大ヒット映画に出た機体

 最後に番外編として、今年注目を集めたもうひとつの“軍用機”を紹介しましょう。それが、映画『トップガン マーヴェリック』に登場した極超音速テスト機「ダークスター」です。スクリーンだけの架空機がランクインすることには異論も多いかもしれませんが、映画自体の世界的なヒット(日本だけでも興行収入は130億円越え)を考えれば、たとえ実在しない機体であっても、その存在は世界中の人々に認知されたといえるでしょう。

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ロッキード・マーチンが協力して作った映画『トップガン マーヴェリック』用の架空機「ダークスター」(画像:ロッキード・マーチン)。

 この「ダークスター」の設定と撮影用実物大モックアップの製作には、ロッキード・マーチン社の先進開発部門「スカンクワークス」が協力したことも話題となりました。同部門は史上初の実用ステルス戦闘機F-117「ナイトホーク」や、世界最速の有人実用機SR-71「ブラックバード」を開発しており、劇中の「ダークスター」の演出をより現実的なものにするのに一役買っていました。

 また、撮影に使われた「ダークスター」のモックアップは、その後にアメリカのエドワーズ空軍基地のエアショーで実機と並べて展示されたり、「スカンクワークス」の広報活動にも利用されたりしています。これは軍や航空機メーカーにとっても、この「ダークスター」の知名度の高さ認めている表われだといえるでしょう。

 なお、2023年1月には前出の百里基地に、今度はインド空軍のSu-30MKIが飛来する予定です。無人機含め、2023年もさまざまな航空機が話題になることは間違いなさそうです。

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