冷戦末期の1989年12月31日、旧ソ連製の戦闘機Su-30が初飛行しました。当初はほぼ売れなかった機体が、その後ロシアにとって貴重な輸出商品になったとか。

2023年1月には日本にも飛来予定の「フランカー」について深掘りしてみます。

冷戦末期、ソ連崩壊2年前に初飛行

 1989年12月31日、ロシアのスホーイ設計局が開発したSu-30戦闘機が初飛行しました。この機体は、NATO(北大西洋条約機構)が付けたコードネーム「フランカー」(アメリカンフットボールのポジション名)の呼び方で日本でもよく知られていますが、そもそもこの名前が付けられた機体は原型のSu-27であり、同機をベースに開発された複数の派生型を含め、いまでは「ファミリーネーム」のように使われています。

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ロシア軍で運用されているSu-30SMは、輸出用のSu-30MKIを国内向け仕様にしたモデル(画像:ロシア国防省)。

「フランカー」の名前で呼ばれるのは、ほかにもSu-27をアップグレードしたSu-35やSu-37、空母搭載の艦載型Su-33、並列複座の戦闘爆撃機型Su-34などがあります。これら派生型・発展型のなかでSu-30の位置づけは、ふたり乗りの複座型をベースに進化した対地・対空の両方の任務が行えるマルチロール機というものになるでしょう。

 Su-30は元々、Su-27PUという名称で呼ばれており、当初はマルチロール機ではなく長距離戦闘機として開発されました。練習用の複座機をベースにして、後席をレーダーなどのアビオニクス(航空電子機器)を操作するオペレーター席にしたのです。アメリカの戦闘機だと、パイロットとレーダー要撃士官がペアで乗り込むF-14「トムキャット」に似た機体だといえますが、ロシアの場合はSu-27PU自体に他の戦闘機に対しても目標指示ができる指揮能力も与えており、最大で4から5機のSu-27を迎撃戦闘で管制することが可能でした。

 ただ、初飛行した時点で冷戦は終わりを告げつつあり、しかもそれから2年後の1991年12月末にソ連自体が解体・消滅してしまったことから、長距離戦闘機としてのSu-30は少数がロシア空軍向けに生産されただけで終わります。この機体が有名になったのはその後に行われた設計当初とはまったく異なる改修によるものでした。

インド導入を皮切りにベストセラーへ

 もともと、「フランカー」シリーズの原点だった単座型のSu-27には、通常爆弾などを使った限定的な対地攻撃能力が備わっていました。

しかもロシア空軍は、対地攻撃に特化した専用機Su-24「フェンサー」なども運用していたため、そこまでSu-27にマルチロール性は求めておらず、その時点で不満はなかったようです。

間もなく来日 ロシア戦闘機Su-30「フランカー」が世界の国々で使われるワケ 空自“初共演”へ
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インド空軍のSu-30「フランカー」戦闘機(画像:ロステック)。

 しかし、1980年代以降の世界の戦闘機のトレンドは1機種で対空戦闘と対地攻撃の両任務に対応可能なマルチロール(多用途)機に移行しつつあり、それを受けロシアは主に輸出用(外貨獲得用)として、Su-30をベースにしたマルチロール仕様の開発を進めることになります。

 これがSu-30Kとその改良型のSu-30MK(後に改良型のMK2も開発)です。これらは、機動性に優れたSu-27「フランカー」をベースにしているため、空中戦での性能も高く、複座型による誘導兵器を使った高度な対地攻撃も同時に可能で、国際市場から見れば非常に魅力的な機体となりました。

 そのため、最初にインドがSu-30Kを導入すると、アンゴラ(Su-30K)、中国(Su-30MKK、Su-30MK2)、ウガンダ(Su-30MK2)、ベトナム(Su-30MK2)など、旧ソ連系の兵器体系を持つ国で採用されるようになりました。これら国々の中には財政的・政治的な理由からアメリカ製戦闘機を購入できない事情をはらんでいたことなどもあり、高性能なマルチロール機のSu-30はそのようなワケ有り国家にとって、ありがたい存在になったようです。

 Su-30を特に気に入ったのはインドでした。1996年に最初のモデルSu-30Kを導入しましたが、その後インド専用の高性能モデルとしてSu-30MKIが開発されます。このモデルは従来の「フランカー」シリーズと比べ、カナード翼とエンジンノズルに推力偏向装置が装備されていることから高い機動性を持ち、搭載されたレーダーも高性能なフェーズドアレイ方式の新型が装備されています。

2023年、改良型が日本に来る!

 また、インドのSu-30MKIはロシア国外での運用ということから、アビオニクスにイスラエルやフランスといった西側の製品が使われているのも特徴です。同機は全部で約270機が生産されましたが、その大部分はインド国内での技術移転も含めたライセンス生産となっており、インド空軍の兵力だけでなく、同国の防衛産業の育成にも貢献しています。

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飛行するSu-30SM。ふたり乗りの複座型であることがわかる(画像:ロステック)。

 Su-30MKIが生まれたことで、その基本仕様をベースにして、アルジェリアとマレーシア向けのモデルも生まれており、それぞれSu-30MKA、Su-30MKM(最後の文字が国名を意味している)として生産・輸出されています。

 こうして輸出を重ねることで進化していったSu-30に対しての能力は、開発国のロシアにも魅力的に映ったようで、Su-30MKIをロシア仕様にしたSu-30SMが開発され、自国向けに生産されています。しかも、このモデルは、親ロシア政策を掲げて自国軍隊と協力路線を取るカザフスタン、ベラルーシなどにも輸出されています。

 前述したように、もともと「フランカー」と名前の付く戦闘機は各種あり、その多さゆえにファンの間でも混乱するほどのレベルです。その背景には機体の基本性能の高さと大型機故の拡張性の高さにあったようですが、一番の理由は用途に合わせて新しいタイプを作るロシアの開発方針にあり、このSu-30はそれを象徴する存在ともいえるでしょう。

 なお、2023年1月中旬には日本国内に初めてインド空軍の戦闘機が飛来します。来日するのはSu-30MKI、まさに前出のモデルであり、「フランカー」シリーズの戦闘機が日本国内で航空自衛隊の戦闘機と共同訓練をするのも初めてのケースだそう。筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)も注目しています。

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