普段は夜に運航する長距離フェリーで昼間に瀬戸内海の絶景を味わう――それを叶えるフェリーさんふらわあの「昼の瀬戸内海クルーズ」に乗船。太陽の下でくぐる本四架橋、浮かぶ島々との距離感の近さなど、瀬戸内海の美しさを存分に体験できます。
旧大阪商船が大阪~別府航路を開設してから112年。商船三井グループの「フェリーさんふらわあ」は、2023年から最新鋭LNG(液化天然ガス)燃料フェリー「さんふらわあ くれない/むらさき」(1万7114総トン)を同航路へ就航させました。両船は同社が提唱するカジュアルクルーズ”の最終形態として建造され「瀬戸内海の女王」の名に相応しい豪華な内装がセールスポイントとなっています。
その「くれない/むらさき」の乗り心地と優雅な船旅を存分に楽しむ企画、「昼の瀬戸内海カジュアルクルーズ」が今年も7月から11月にかけて実施されています。
さんふらわあ くれない(深水千翔撮影)。
さんふらわあの瀬戸内海航路(大阪~別府、神戸~大分)は、どれも夕方から夜に出発して朝に到着するダイヤが組まれているため、外の景色を楽しむことはほとんど出来ません。別府航路の場合、週末ダイヤとなる金・土曜日の時刻表を見ると、下り便が大阪南港を出港するのは20時5分で、別府港に到着するのは翌7時55分。上り便は別府港を19時20分に出港し、翌7時25分に大阪南港へ到着します。大阪発の下り便はライトアップされた明石海峡大橋は見ることができますが、別府発の上り便は日が沈んだ伊予灘を進むことになり、来島海峡大橋をくぐるのは深夜0時過ぎ。瀬戸大橋は上下両便ともに真夜中に通過します。
しかし昼間に出港すれば本四架橋や風光明媚な瀬戸内海の島々、そして行き交う船も船内から眺められます。フェリーさんふらわあ営業グループ課長代理の三田恭平さんは「お客様アンケートで一番多いのが、昼の瀬戸内海を見たいという声です」と話します。
瀬戸内海を東西に縦断するフェリーは点在する離島の間を縫うように航行しており、そうした島々との距離が非常に近いことが魅力の一つ。実際、フェリーさんふらわあの前身である関西汽船は人気観光地としての「瀬戸内海」に着目し、1960年に投入した先代の「くれない丸」「むらさき丸」(3000総トン)には、昼間に航行することを前提とした旅客設備を取り入れました。
当然、両船の名前を継いだ「さんふらわあ くれない/むらさき」も、客船のような丸窓が設置された吹き抜けのアトリウムをはじめ、広い展望大浴場や郷土料理を提供するレストラン、さらにはバルコニー付きのスイートなど、外の景色も満喫できるよう工夫が凝らされています。
「夜の海に浮かぶシルエットと、明るい時に見る島影は違います。大阪や神戸といった大都市から、瀬戸内海の青い海や自然豊かな島々へと、紙芝居のように移り変わっていく風景を楽しいでほしい」(三田さん)
「別府発」も乗ってこそ「昼の瀬戸内海」を制す今回の「昼の瀬戸内海カジュアルクルーズ」は上下合わせて9便が設定されています。
下り便は大阪を13時に出港し、14時15分ごろに明石海峡大橋を、17時50分に瀬戸大橋をくぐります。淡路島から播磨灘の小豆島、日が長ければ塩飽諸島の粟島付近まで明るい時間を航行するため、大小さまざまな島が点在する多島美をゆっくりと味わえます。別府到着は翌4時25分ですが、下船開始は7時55分になるため船内でノンビリ過ごせるのもこの臨時便の醍醐味でしょう。
「ただ大阪発では来島海峡大橋が見える前に日が暮れてしまいます。そのため別府発も用意し、全区間で明るい瀬戸内海を当たり前のように体験してもらえるようにしました」(三田さん)
上り便は13時に別府を出港し、別府湾から九州、四国、本州の3島に囲まれた伊予灘を東へと進んでいきます。国東半島と佐多岬半島を望みつつ、次第に西へと傾く太陽を海と共に眺めていると忽那諸島の興居島と中島の間にある釣島水道を通過。やがて芸予諸島の大崎下島が見えて大角鼻(今治市)の沖を右に回頭し、17時50分ごろに来島海峡大橋の下をくぐります。
三田さんは昼間の臨時便について「レギュラーの企画として打ち出しており、これからも続けていきたい」と意気込みます。

瀬戸大橋をくぐる瞬間。昼クルーズならではの光景(深水千翔撮影)。
フェリーさんふらわあの昼行便は、別府航路開設100周年を記念して2011年に行われた「よみがえる昼の瀬戸内航路」を原点に、神戸~大分航路で毎年開催されていました。コロナ禍で一時中断した後、2022年に神戸~大分航路と大阪~別府航路の両方で実施され、2023年は「さんふらわあ くれない/むらさき」の就航を機に別府航路でのみ昼の運航が行われています。もちろん今後は別府航路だけでなく、大分航路や大阪~志布志航路にも拡げていく可能性があります。
「船内イベントで集客するのではなく、昼の瀬戸内海の景色という天然のハードを強調していきたい。その期待に応えられるだけの船ができました」(三田さん)
これから乗れる「昼の瀬戸内海カジュアルクルーズ」は、大阪発が9月9日、10月28日、11月4日の3便。別府発が9月17日、10月8日、11月12日の3便です。