現在では「タイヤ=黒」というのが常識ですが、20世紀初頭の頃は「タイヤ=白」が当たり前でした。なぜ白いタイヤは見かけなくなったのでしょうか。

実は今でも面影を残すタイヤもあります。

「タイヤ=黒」という常識はいつから?

 ブリヂストンと出光興産は、2026年の実用化を目指して空気の充填がいらない「エアフリーコンセプト」に基づく「パンクしないタイヤ」の開発を現在進めています。

 このタイヤはゴム製の接地面とホイールの間に特殊な樹脂スポークを備えており、ここでタイヤ形状を維持する仕組みです。だからこそ空気を入れる必要がなく、穴が開いてもつぶれることがないため走り続けられるのですが、このスポーク部分を青や赤に着色することもできます。そのため、既存の黒一色のタイヤを見慣れた人には少々奇異に感じるかもしれません。

「真っ黒タイヤ売れません!」白ライン入りは苦渋の選択!? メ...の画像はこちら >>

ロシアのサンクトペテルブルクで行われた対独戦勝記念式典で使われていたZIL-410441。2017年までモスクワの対独戦勝記念式典でも使われていた(画像:ロシア国防省)。

 タイヤが黒く見えるのは、耐摩耗性や耐久性を向上させるために、加工時に原料のゴムに「カーボンブラック」と呼ばれる炭素の黒い粉末を混ぜているからです。この技術は1912年にアメリカのBFグッドリッチ社が開発したものですが、自動車用の空気入りタイヤが発明されたのは、それから遡ること17年前の1895年のこと。ゆえに、実は黎明期のタイヤは黒くなかったのです。

 では、当初の自動車用タイヤは何色だったのでしょうか。それはちょうど消しゴムが白いのと同じで、素材となる天然ゴムの色、すなわち白だったのです。

もう少し正確に記すと、補強剤や増量剤として塩基性炭酸マグネシウムや炭酸カルシウムを加えていたため、アイボリーに近い、乳白色でした。

 しかし、性能的にはカーボンブラックを配合した黒いタイヤの方が上です。そのため前述したように、1912年にBFグッドリッチ社が黒いタイヤを発明したことで、それまでの白いタイヤは徐々に市場から姿を消すはずでした。

昔は「黒いタイヤ」は売れなかったってホント!?

 ところが、それまで「タイヤは白いもの」との常識に囚われていた当時のユーザーからすると、黒一色のタイヤはどうも馴染めなかったようで、発売当初は売れ行きが伸び悩んだそう。

 そこでメーカーは白黒ハッキリつけるのではなく、折衷案としてトレッド(接地面)は耐久性・耐摩耗性に優れる黒いゴムを使い、タイヤウォール(タイヤの側面)には人々が見慣れた白いゴムを組み合わせた「ホワイトウォールタイヤ」を発表します。

 この製品は黒いタイヤよりも高価だったにもかかわらず、発売されるや否や大変な売れ行きを見せ、タイヤの変遷期となった1930~1950年代初頭に大いに人気を博しました。

 しかし、人々が黒いタイヤを見慣れてきたこともあり、1950年代の終盤になると「ホワイトウォールタイヤ」は徐々に人気を失いました。それに代わって登場したのが、タイヤ側面に約1インチ(2.54センチ)のストライプが入った「ホワイトリボンタイヤ」で、高級車を中心に世界の多くのクルマが採用します。

「真っ黒タイヤ売れません!」白ライン入りは苦渋の選択!? メーカーの知られざる葛藤とは
Large 241129 tire 02

ホワイトウォールタイヤを履いたVWタイプI(ビートル)。ホワイトウォールタイヤは1950年代までのクラシックモデルによく似合う(山崎 龍撮影)。

 また、1970年代に入るとタイヤメーカーのブランドロゴを白いゴムで整形した「ホワイトレタータイヤ」が、スポーツカーやクロスカントリー4駆向けのタイヤを中心に流行しました。

 このようなファッション性を重視したタイヤはアメリカ市場での人気が高く、1990年代までアメリカ車の新車装着タイヤとして採用が多かったのですが、日本やヨーロッパ市場ではタイヤの見栄えよりも性能向上を求めるユーザーの声が大きく、1980年代までには市場からほぼ姿を消しています。

 こうした流れから、現在では「ホワイトリボンタイヤ」や「ホワイトレタータイヤ」を純正装着しているクルマは存在せず、クラシックカー用のリプレイス製品を除くと、ミシュランやブリヂストン、グッドイヤーなどといった主要メーカーの製品ラインナップからは姿を消しています。

オシャレの基本は足元から

「ホワイトリボンタイヤ」や「ホワイトレタータイヤ」が市場から姿を消した背景には、低扁平率化が進んだ現代のタイヤとの相性が悪いうえ、一般的な黒いタイヤと比べて製造コストが高いことから、メーカーが積極的に製品開発を行わなくなったことがあるようです。

 また、これらのタイヤはファッション性が高い反面、美しい状態を保つにはまめに掃除が必要であり、縁石などをタイヤに当てないよう常に慎重な運転も求められることから、このような煩わしさを嫌うユーザーが増えたことも影響があるのでしょう。

「真っ黒タイヤ売れません!」白ライン入りは苦渋の選択!? メーカーの知られざる葛藤とは
Large 241129 tire 03

ヴィッツァータイヤの『フォーミュラX WSW』を装着した4代目ダイハツ・ムーブ。ごく普通の軽自動車もホワイトリボンタイヤを装着することでオシャレになる(山崎 龍撮影)。

 しかし、ホットロッドやローライダー、レトロルックなどといった自動車のカスタムカルチャー世界では、「ホワイトリボンタイヤ」や「ホワイトレタータイヤ」などの需要は依然としてあります。そのため、こうしたニッチ市場を狙って、アメリカのBFグッドリッチやヴォーグタイヤのほか、中国のヴィッツァータイヤ、シンガポールのレーダータイヤなどが精力的に製品展開しています。

 ただし、こうしたタイヤは流通量が少なく、サイズも限定されるため、どのクルマにも装着できるわけではありません。そこで「ホワイトリボンタイヤ」や「ホワイトレタータイヤ」を好むユーザーの中には、タイヤ側面を特殊な塗料で塗る「タイヤペイント」や、ホワイトリボンやロゴを専用のシールで再現する「タイヤデカール」、ホイールとタイヤの間にラバー製のホワイトリングをはめ込む「スキニーリボン」を用いてドレスアップを試みる人などいます。これらカスタムなら、一般的な黒いタイヤでも好みの仕様に変身させることができます。

「オシャレの基本は足元から」との言葉がありますが、平凡な黒いタイヤに飽きた人は「ホワイトリボンタイヤ」や「ホワイトレタータイヤ」へのカスタムにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

編集部おすすめ