日本国内では、その安全性を不安視する声が未だ止まないティルトローター機「オスプレイ」。しかし世界ではいま、「ティルトローター機の波」が確実に来ています。
2016年4月14日(木)から2回にわたり、震度7を記録し大きな被害を出した熊本地震。在日米軍は即座に日本政府に対して援助を申し出て、救助活動に参加しました。
災害派遣された航空機のうち、特にアメリカ海兵隊の主力輸送機ベル・ボーイングMV-22B「オスプレイ」は、これまで安全性が不安視されてきたなかにあって物資の輸送に実績をあげ、様々な任務を可能とする高い汎用性と安全性を実証しています。
「オスプレイ」は世界初の“実用ティルトローター機”です。「ティルトローター機」とは、ローター(プロペラ)の角度を偏向(ティルト)させることで、飛行機の速さと長い航続距離、ヘリコプターの垂直離着陸能力を実現するという、両者の良い所取りをした航空機です。今回の地震においては、フィリピンから岩国基地(山口県)へたった1日で展開。その特性を発揮しました。
しかしながら、「オスプレイ」に対する安全性の懸念や欠陥機扱いする反対の声は、未だ小さくないようです。
残念なことに、こうした主張の多くには事実誤認が含まれています。「オスプレイ」は統計上、重大な事故が比較的少ないほうであり、加えて、その特有のメカニズムに由来する墜落事故は一度もたりとも発生していません。
世界では開発が進むティルトローター機、続々と実用化へ日本ではあまりにも「オスプレイ」が有名になってしまいましたが、現在、アメリカとヨーロッパでは「オスプレイ」に続くティルトローター機が実用化を目指して開発中です。
アメリカのベル・ヘリコプター社は、アメリカ陸軍の主力汎用ヘリUH-60「ブラックホーク」の後継として、V-280「バロー」を開発しています。「バロー」は「オスプレイ」とは異なり機体側面にドアが設けられ、最大14名の兵士が素早く乗降可能。また垂直離着陸中においてもエンジンの排気口は水平に保たれ、乗降の際に高温の排気によって人員が負傷しないよう配慮されています。このV-280「バロー」は2017年に初飛行する予定です。
民間機としては、イタリア・フィンメカニカ社のAW609が2003(平成15)年に初飛行しています。同機は510km/hの速度と2036kmの航続距離を持ち、最大9名が搭乗可能。世界的に需要の多い海底油田への人員輸送や、VIP輸送といった用途を見込み、計画が遅延してはいるものの、2017年には量産機の引き渡しがなされるものと目されています。
ティルトローター機は「かなり高価」という欠点を持ちますが、最大24名が搭乗可能な大きすぎる「オスプレイ」よりもずっと小さいAW609ならば、「オスプレイ」の3分の1から4分の1、約25億円で購入可能です。フィンメカニカではAW609を「ゲームチェンジャー」、すなわち「既存のヘリの概念を全て覆す存在である」と自称しており、すでに60機を受注しています。
明治の鉄道と重なる日本の「オスプレイ」日本においては多数の離島を抱えるその地勢上、ティルトローター機は「ドクターヘリ」などの急患輸送に最適です。“ヘリの2倍”というスピードと航続距離を活かし、より迅速、かつ広範囲の輸送が可能になるでしょう。ただしAW609が1機およそ25億円で、ティルトローター機としては安価ながら、既存の「ドクターヘリ」より何倍も高価である点は大きな課題です。
日本に鉄道が敷設され始めた明治の頃、当時の住民はいままで見たことが無い蒸気機関車に恐れおののき、火災や事故の心配、果ては全く根拠のない感情的理由から、線路を通すことに対して各地で反対運動や妨害が起こりました。そして鉄道を受け入れた地域は駅を中心に発展したのに対し、拒否した地域は交通の便が悪くその後、寂れてしまったと伝えられます。
「鉄道忌避」と呼ばれるこの談話は、実例を示す証拠がなく都市伝説であるそうですが、いま世界で日本だけが行っている、根拠に欠ける「ティルトローター忌避」の事実。それがもたらす結果について、示唆に富んでいるといえるでしょう。
「オスプレイ」に続くティルトローター機の登場は、もはや時間の問題です。日本の「ティルトローター忌避」、その克服がなされなければ、将来の世代に対して大きな禍根を残すかもしれません。