商船三井が大阪・関西万博のパビリオン出展内容を発表。かねて開発している「水素を作る船」の特大模型が登場し、水素製造を“体験”できるそうです。
商船三井は2025年3月3日、大阪・関西万博の出展内容を発表し、大阪市内で記者会見を行いました。
商船三井が公開しているウインドハンターのイメージ映像より。万博出展模型はボディ形状が異なる(画像:商船三井)。
同社は、国内12社の展示からなる万博の「フューチャーライフ“未来の都市パビリオン”」に出展。その目玉は、同社が開発する「水素を作る船」こと「ウインドハンター」の大型模型です。
ウインドハンターの模型は以前からいくつかの種類が作られていました。流線形の船の甲板に、「硬翼帆」と呼ばれる巨大な“帆”が12本も林立する特異なイメージで作られています。「ウィンドチャレンジャー」と呼ばれる帆は伸縮可能で、1本の最大高さは約40mにも。これは風力推進装置としてすでに実用化されています。
商船三井の技術研究所 島 健太郎所長は、ウィンドハンターを「動く発電所+水素製造工場」だと説明します。「この船は目的地らしい目的地はなく、“風の強いところ”に行きます」と話します。
・風の強い海域で帆を伸ばし、風の力で船が進む。
・その水流で水中の発電タービンが回り発電。
・その電気で水を水素と酸素に分解。
・水素をMCH(メチルシクロヘキサン)と呼ばれる常温常圧の液体に変換。
・MCHを船内タンクに貯蔵。
・タンクがいっぱいになったら、MCHを陸揚げ。
MCHは、水素を運んで取り出すのに適した物質、いわゆる“水素キャリア”の一種。上記の流れで陸揚げ後は、再び風を求めて旅に出ます。航行は完全ゼロエミッションだそうです。
万博パビリオンの模型は、全長4m×帆の高さ3mほどという大きなサイズです。また、水素燃料のバイクなどを展示する川崎重工のブースの隣に出展するとのこと。
今回のウインドハンターの模型は、帆が回転するなどギミックがあるそう。ここで来場者は「うちわ」を使って、水素製造を体験するのだそうです。
どれくらい水素できるの!?「ウインドハンターにうちわを使って風を送り、風力計で風を感知します。その風力によって、どれくらいの水素ができるのかで、流れる映像が変わる仕組みです。記憶に留める体験をしてもらいたい」

万博パビリオンの紹介(乗りものニュース編集部撮影)。
商船三井コーポレートコミュニケーション部の万博プロジェクトリーダー、森 裕紀さんはこう話します。小学校高学年~中学生に向けた内容だといい、会場では6人一組でうちわを仰ぐことを想定しているそうです。
では、どれくらいの風力を送ると、どんな映像が流れるのでしょうか。
森さんは、「本当に(ウインドハンターに)必要な風力とはリンクしていませんが」と断ったうえで、「6人が一生懸命仰げば、『世界中の街に水素が届く』、中くらいの風量なら『ある程度の都市に水素が届く』、風力が少なければ『モビリティが少し動く』」映像が流れるそうです。
実際の開発はどれだけ進んでいるのか?模型や映像でかねて表現しているウインドハンターは、まだこの世には存在しません。現在は、ヨットを改造した小型の水素生産船「ウインズ丸」(全長12m)で実証実験を行っている段階です。
今年は、発電容量をアップさせたウインズ丸で水素を作り、MCHの陸揚げ、それを使うサプライチェーンの構築までを実験するといいます。
島所長によると今後、2028~29年くらいには、全長70~80mのより大きなデモ船を作って実証を行うといいます。
ウインドハンターの建造はそれ以降になりますが、実際の船は「全長230mくらいを想定している」というので、日本の内航フェリーよりも大きな船になります。
ちなみに今回の万博に登場する大型模型から、船のボディの種類を変更しています。
今回の模型は、左右同形状の船体をつないだような“双胴船”となっていて、実際の導入も双胴船で考えているそう。甲板上が重いため、単胴船だと悪天候などで転覆する可能性もあることから、より安定する船型にするといいます。