2025年現在、国内で販売される軽トラックはOEM車が主流となり、実質的にはスズキ「キャリィ」とダイハツ「ハイゼットトラック」の2車種しかありません。しかし、かつては各社が独自設計による個性的な軽トラックを製造・販売していました。
昭和から平成にかけての時代、軽自動車の製造・販売に積極的ではなかったトヨタと日産を除き、ほとんどの国内メーカーが独自設計による軽トラックを自社のラインナップに載せていました。
一見すると皆同じようなカタチに見える軽トラックですが、その中身はメーカーによって大きく異なり、軽自動車規格という限られた枠の中で、経済性や耐久性、実用性、快適性、価格と、相反する要件をバランスさせることに各メーカーは心血を注いでいました。
その結果、FR(フロントエンジン後輪駆動)あり、RR(リアエンジン後輪駆動)あり、ミッドシップありと、さまざまな駆動方式の軽トラックが存在し、エンジンは3気筒だけでなく4気筒もあったほか、サスペンションにあえて四輪独立懸架を採用したりと、メーカーごとに異なる個性が咲き乱れていました。
ところが、最大の顧客である第一次産業の従事者が少子高齢化の影響で減少傾向にあることから平成期には自社生産から撤退するメーカーが相次ぎ、現在ではほとんどのメーカーがスズキ「キャリィ」やダイハツ「ハイゼット」のOEM(相手先ブランド名製造)車へと販売を切り替える、もしくモデルを廃止して販売そのものを終了しています。
そこで、今回は昭和から平成にかけて各メーカーが製造していたオリジナリティ溢れる懐かしの軽トラックを振り返ってみましょう。
・スバル「サンバー」1961~2012年にかけて6世代に渡って生産・販売されたスバル自社設計の軽商用車で、軽トラックと軽バンの設定がありました。「サンバー」は「農道のポルシェ」との異名を持ちますが、それはこのクルマがポルシェ「911」と同じくRRレイアウトと四輪独立懸架方式サスペンションを採用していことに由来します。
2011年に「サンバー」シリーズ発売50周年を記念した特別仕様車「WR BLUE LIMITED」。翌2012年春に「サンバー」は自社生産を終了したのでシリーズの有終の美を飾るモデルとなった(画像:スバル)。
また、1990年登場の5代目からはクラス唯一の4気筒エンジンを搭載。こうした「サンバー」独自のメカニズムは、静粛性や快適性、操縦性への向上へと繋がったのです。また、スバルのお御家芸である4WDをライバルに先駆けて採用していました。
ホンダや三菱、マツダなどもオリジナリティあふれる軽トラックを長年にわたって造っていました。
・ホンダ「アクティトラック」1977~2021年にかけて4世代にわたって生産・販売されたホンダ「アクティトラック」は、「農道のNSX」の通り名でユーザーから親しまれていました。
通り名の由来となったのが、クラス唯一のミッドシップレイアウトと2代目以降に搭載されたE05/07シリーズ直列3気筒SOHCエンジンの組み合わせで、優れた操縦性と旋回性、ホンダらしく高回転までスムーズに回るE05/07シリーズ直列3気筒SOHCエンジンによって、まるでスポーツカーを運転しているかのようです。こうした独特のキャラクターから多くのファンに愛された「アクティトラック」ですが、販売台数の減少から消滅。現在ではホンダのラインナップから軽トラックはなくなっています。
・三菱「ミニキャブトラック」三菱は1966~2014年(BEVのMiEVトラックは2017年まで)にかけて6世代に渡って自社設計の「ミニキャブトラック」を生産・販売していました。質実剛健な三菱のクルマ作りは軽トラにも如何なく発揮されており、耐久性の高さがユーザーから支持されていました。
1999年に登場した6代目では前面衝突安全基準をクリアするためにセミキャブオーバー型となりましたが、小回り性を重視して軽バンと比べてホイールベースを短縮した点が特徴です。なお、三菱は一時期「ミニキャブトラック」を「クリッパー」の名称で日産へOEM供給していました。
・マツダ「ポーターキャブ」マツダでは、かつて軽ピックアップトラックの「ポーターキャブ」を販売していましたが、1969年にフルモデルチェンジした際にキャブオーバー型へと変更。こうして生まれた2代目が軽トラ仕様の「ポーターキャブ」です。

ホンダ「T360」(左)と、2018年に登場した「アクティトラック」の最終限定車「スピリットカラースタイル」(右)。
2代目の特筆すべきところは、心臓部を当初の360cc直列2気筒空冷2サイクルエンジンから、水冷化と550ccへの排気量拡大を経て、三菱製直列2気筒水冷4サイクルエンジンへ換装するなど、適時改良を施しながら、20年という長きにわたって生産し続けた長寿モデルであるという点でしょう。
基礎設計が古いことから、軽トラに必須の4WDモデルや、AT搭載などは生産終了まで設定されませんでしたが、丸型ヘッドランプの愛くるしいマスクから、希少な「マツダ製軽トラ」として長年にわたり多くの人に愛されていました。
2025年現在は実質2車種に集約それでは、2025年3月現在、生産されている軽トラックはどのようなモデルなのでしょうか。
・スズキ「キャリィ」1961年に初代モデルが登場して以来、現在までに11世代を数えるスズキ最古の商用車が「キャリィ」です。初代と2代目はボンネットを持つピックアップトラックでしたが、3代目からキャブオーバーモデルとなりました。
心臓部は7代目のモデル途中で4サイクルエンジンが追加されるまで2サイクルエンジンを搭載していたほか、7代目から軽バンが「エブリィ」として独立したことで「キャリィ」は軽トラック専売車種となりました。ちなみに、2010年にダイハツ「ハイゼット」(後述)に抜かれるまで、39年連続でトラックの車種別年間販売台数1位を誇っていました。
・ダイハツ「ハイゼット トラック」軽商用車としては最古の歴史を持つ軽商用車です。前出のスズキ「キャリィ」より先立つこと1年、1960年にライトバン/ピックアップトラックとして初代モデルが登場し、2代目からキャブオーバー型トラック/バンとなりました。

1998年の軽規格改定に合わせて登場した10代目スズキ「キャリィ トラック」の初期型。セミキャブオーバー型とすることで衝突安全性を高めたが、運転席の足元が狭く、小回りが効かないことから2005年にはキャブオーバー型が追加され、併売された(画像:スズキ)。
1999年に軽規格が変更されると、軽バンはセミキャブオーバー型となりましたが、軽トラックは厳しい前面衝突安全基準をクリアしつつ、キャブオーバー型を継承しています。また、1981年の6代目からキャビンを延長した「ハイゼットジャンボ」が登場。2018年にスズキが「スーパーキャリィ」を登場させるまで軽自動車唯一のエクステンドキャブモデルでした。
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2025年3月現在、各社が販売する軽トラックは、トヨタ「ピクシストラック」とスバル「サンバー」がダイハツ「ハイゼットトラック」。日産「クリッパートラック」と三菱「ミニキャブトラック」、マツダ「スクラムトラック」がスズキ「キャリィ」のOEMとなっています(ホンダは軽トラックを販売せず)。
日本人の生活に深く根差した乗りものといえる軽トラック。最近では海外でもその使い勝手の良さからアメリカをはじめとした国々で人気だとか。衝突安全性や排ガス規制への適合など、クリアすべき課題が色々あるため、昔のように「百花繚乱」とはいかないでしょうが、各社には頑張って面白い、個性的な軽トラを開発してほしいと心から願っています。