海上自衛隊の横須賀基地に初寄港したのは、イタリア海軍のフリゲート「アントニオ・マルチェリア」です。集まった報道陣に公開された同艦の艦内には、日本の護衛艦では見慣れないものをたくさん見つけることができました。
2025年3月27日、イタリア海軍のフリゲート「アントニオ・マルチェリア」が神奈川県にある海上自衛隊の横須賀基地に寄港しました。
横須賀基地に入港する「アントニオ・マルチェリア」(稲葉義泰撮影)。
「アントニオ・マルチェリア」は、イタリア海軍の主力水上戦闘艦であるカルロ・ヴェルガミー二級フリゲートの8番艦で、2019(令和元)年に就役しました。全長142m、全幅19.4m、満載排水量は5950トンで、日本のもがみ型護衛艦よりもひと回り大きなサイズです。
武装は、前部に127mm単装砲、後部に76mm砲をそれぞれ装備しているほか、艦対空ミサイルの「アスター15/30」を発射するための垂直発射装置(VLS)を16セル備えます。また、船体中央部には艦対艦ミサイル「テセオ」の発射装置が搭載されています。
同艦は、インド太平洋地域への長期展開を目的とする「プロジェクション」作戦を実施するため、1月20日にイタリアの母港ラ・スペツィア海軍基地を出港。インド太平洋地域に展開した後は、各国との共同訓練や寄港などを通じて、同地域でのイタリアのプレゼンス(存在感)を示してきました。
近年、イタリアはインド太平洋地域への関与度合いを強めており、2024年には空母「カヴール」を日本に初寄港させるなど、日本との連携強化も進めています。今回の「アントニオ・マルチェリア」寄港も、その流れに基づくものです。
筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は、寄港当日の取材に参加し、艦内を見学する機会を得ました。
艦尾から乗艦し、まずヘリコプター格納庫へ入ると、艦載ヘリコプターのNH90がありました。
格納庫横の階段をのぼり、狭い通路を抜けると船体中央部に出ます。ここには艦対艦ミサイル「テセオ」の発射筒が4本置かれており、各発射筒の上にさらに発射筒を載せることで、最大8発を搭載することができます。ちなみに、この船体中央部に出るためのドアは自動開閉式で、重厚なドアがボタン一つでゆっくりと開閉する様子はなかなか迫力がありました。
艦内で見かけた「白」の意味とは?そこからさらに通路を進むと、広々とした艦橋に出ました。海上自衛隊の一般的な護衛艦と比べると、コンソールがデジタル化されていたり、乗員用のイスが置かれていたりと、細かな相違点が目につきます。護衛艦でいうと、雰囲気はもがみ型に近い印象です。また、艦橋横の見張り台(ウイング)床には、スノコ状の木組みが置かれており、波をかぶっても足元に水がたまらない構造となっています。

「アントニオ・マルチェリア」の艦載ヘリコプターであるNH90(稲葉義泰撮影)。
また、最近では女性乗員も増えてきており、今回の展開でも乗員約200人のうち40人程度が女性。
このように、艦内取材を通じてさまざまな文化的違いを実感したのですが、筆者が最も驚いたのは艦内における“破壊工作対策”の徹底ぶりです。
通路を歩いていると、通信室のドアに「ビアンコ(イタリア語で『白』)」と書かれた小さな丸いパネルを発見しました。これは何かと尋ねてみると、乗員はパネルに手を伸ばして、くるっと回転させました。すると、隠れて見えていなかった部分には何やら爆発物のイラストが。
「これは、艦内を定期的に見回る際に使用するものです。部屋を一つ一つ捜索して、とくに異変がなければ『ビアンコ』のままにしておきます。一方で、もし何らかの不審物を発見した際には、これを回転させて異常があることを知らせるのです」
たしかに、これならば艦内の安全を視覚的に確認することができるなと、乗員の説明を聞いて納得する一方で、このような徹底した安全管理ぶりに驚きました。
このあと、「アントニオ・マルチェリア」は4月8日に横須賀基地を出港して大阪港に向かい、そこで大阪・関西万博のPR活動として艦内の一般公開も予定されているとのことです。