かつてはワンボックス車の代名詞ともなったマツダ「ボンゴ」は、日産や三菱、さらにはフォードにもOEM供給していました。しかし、マツダの戦略転換で今ではダイハツ車ベースになっています。
かつて、ワンボックス車の代名詞となっていたマツダ「ボンゴ」は、さまざまなブランドにOEM供給していたことでも知られています。しかし、マツダが商用車生産から撤退したことにより、OEM供給をする側から受ける側へと転じ、現行型「ボンゴ」はダイハツからのOEM車となりました。そのような数奇な運命を辿った「ボンゴ」シリーズを今回は紹介します。
5代目となる現行型マツダ「ボンゴ」。ダイハツ「グランマックス」のOEM車で、トヨタ「タウンエース」や「ライトエース」の姉妹車である(画像:マツダ)。
そもそも、OEMとは「Original Equipment Manufacturing」の略で、日本語では「相手先ブランド製造」と訳されます。OEMの目的を大まかにまとめると以下の3つになります。
1、市場が黎明期もしくはニッチ市場において、特定のジャンルの商品や製造技術を持たないメーカーが、他社からOEM供給を受けることでそうした市場へ参入しやすくなるほか、自社ラインナップの補完ができる
2、市場が成長期、自社の生産能力が追いつかない、あるいはラインナップを拡大する際に、他社製品を用いることで自社のラインナップを補強する
3、市場の衰退期に、開発・製造コストなどの問題から自社での独自開発・生産を止め他社製品の供給に切り替えることで、低コストで市場への製品供給が可能となる
メーカーを跨いだOEMで多いのが商用車で、理由は主に前出の(1)と(3)になります。日本車の場合、30年ほど前まで各社とも独自設計の商用バンや小型トラックを製造販売していました。
ところが、業務で使用する商用車の場合、最大積載量やボディサイズ、販売価格が決まってしまえば、自ずと性能は似たようなものとなり、他社との差別化が難しい、言うなれば「没個性」の選ぶところがない商品となってしまいます。
こうした車を、多額の費用を投じて自社開発するのは、金銭的にも開発リソースの面でもムダです。そこで販売力の劣るメーカーから、商用車についてはOEMモデルの導入が進みました。
ただ、商用車はメーカーにとっては利幅の薄いモデルですが、ディーラーにとっては法人などのフリートユーザーによる定期的な代替えが期待できる重要な商品です。また、商用車の購入などを通じて自社の乗用車を経営者や社員などに売り込むチャンスにも繋がります。
そのため販売現場では疎かにできない重要モデルでもあり、自動車メーカーのラインナップに不可欠な商品であることは間違いありません。
日産や三菱、フォードなどへOEM供給こうしたOEM車を巡る思惑の中で、経営環境の変化からOEM車を供給する立場から、OEM車を受け取る立場へと変貌したのがマツダ「ボンゴ」 です。

1999年に登場した4代目マツダ「ボンゴ」。日産へは「バネット」、三菱へは「デリカ」としてバンとトラックがOEM供給された(画像:マツダ)。
このクルマは最大積載量850~1150kgの4ナンバーバン&小型トラックとして1966年に誕生。OEM供給は1975年に登場した2代目からで、グループ企業であるフォード系の「オートラマ店(のちのフォード店)」向けに「スペクトロン」という名でスタートしています。
その後、1983年にデビューした3台目からは「スペクトロン」に続き、1990年2月には新たに立ち上げられた「ユーノス店」向けにユーノス「カーゴ」としてバンとトラックの供給を開始。さらに、同年4月には商用車の相互供給という体で、日産から「ADバン」を「ファミリアバン」としてOEM供給を受ける見返りに、「ボンゴ」を「バネット」名で供給するようになります。
1999年6月、自社生産最後のモデルとなる4代目「ボンゴ」が登場します。当初は設計を一新したフルモデルチェンジも検討されたようですが、マツダの経営が悪化していた時期ということもあり、車体の前半のみを新衝突基準に対応させた言わばビッグマイナーチェンジに近いカタチでのモデルチェンジとなりました。
ただし、新型車として運輸省(現在の国土交通省)の認可を受けていることから、法律的にはフルモデルチェンジという扱いでした。
4代目「ボンゴ」はマツダの5チャンネル体制の失敗により、フォード「スペクトロン」と「ユーノスカーゴ」は落とされましたが、日産へは「バネット」として引き続き供給されたほか、新たに三菱へ4代目「デリカ」としても供給されるようになります。
しかし、2009年に日産が「NV200」を登場させると、「ボンゴ」ベースの「バネット」バンはラインナップを縮小。しばらくは販売を続けていましたが、2017年6月にトラックともども日産での扱いを終えています。一方、三菱は2011年にOEM供給元を日産に変更し、「NV200」を5代目「デリカ」として販売しました(トラックはモデル廃止)。
マツダの事業戦略の影響がもろにこうして4代目「ボンゴ」のモデル後期には、OEM供給先を失ってマツダ系列のディーラーのみで販売を継続することになりました。そうしたなか、マツダが乗用車やSUVに注力するとして商用車の自社生産から撤退を決めたことで、2019年のトラックに続いて、2020年にはバンモデルの生産まで終了しています。

現行型のマツダ「ボンゴブローニィバン」。トヨタ「ハイエース」のOEM車である(画像:マツダ)。
後継モデルとなる5代目「ボンゴ」は、2017年にトヨタとマツダが資本提携を結んだことから、トヨタグループのダイハツから「グランマックス」のバンとトラックをOEMという形で供給を受けることに決まります。
この結果、「ボンゴ」はトヨタ「タウンエース」や「ライトエース」(2020年にモデル廃止)の姉妹車となったのです。ボディ形状は5代目「ボンゴ」のキャブオーバー型からセミキャブ型となり、ボディサイズがひと回り小さくなったことから荷室容積は減少、最大積載量も750kg(4WD車は700kg)へと少なくなりました。
マツダ「ボンゴ」は初代モデルが独立懸架サスペンションを用いた、例えるならRR(リアエンジン後輪駆動)レイアウトを採用したスバル「サンバー」を大きくしたようなモデルでしたが、2代目モデルからはコンベンショナルな設計のFR(フロントエンジン後輪駆動)レイアウトの商用車へと変貌しています。
また、4WDのMT車はクラス唯一のトランスファーに2速の副変速機を持つパートタイム式を採用し、コモンレール式のクリーンディーゼルモデルもいち早く用意、ダブルタイヤの低床モデルが選べるのも「ボンゴ」だけの特徴でした。
基本設計が古く、内外装のヤレ・タレが早いのが「ボンゴ」の弱点だったものの、ボディ自体は丈夫で耐久性は高く、このクルマならではの特徴から指名買いが多かったことも事実です。
最近では徐々に街中で見かける機会が減ってはいますが、中古車は比較的豊富にあり、価格もこなれています。安価な中古商用車の購入を考えている人は「ボンゴ」ファミリーを検討しても良いかもしれません。