ダイハツの京都工場は「シンプル・スマート・コンパクト」の理念のもと2022年に新しくなった工場です。一体どのような部分が変わったのでしょうか。
軽自動車や小型車など、比較的小さなクルマの製造を得意としているダイハツは、現在工場のSSC(シンプル・スマート・コンパクト)化を進めています。SSCは、製造するクルマに合った設備にすることで、時間もエネルギーも場所も、より効果的に生産する考えです。そのような理念のもと、2022年に新しくなったのが京都(大山崎)工場になります。同工場を訪れて感じた、SSCのあり方をレポートします。
京都工場の製造ライン(西川昇吾撮影)
今回取材した京都工場では現在、親会社であるトヨタのプロボックス(受託で製造しているマツダのファミリアバンも含む)とトール(OEMのトヨタ・ルーミー及びスバル・ジャスティ含む)の2車種を生産しています。以前の工場では1か月あたりの生産能力は1万1200台でしたが、新しい工場では、なんと1万9400台と大幅に増えています。
生産能力が向上した背景には生産工程の効率化があります。工程を15%ほど少なくすることに成功し、1台あたりの生産時間を約30%短くすることに成功したのです。
少なくしたのは生産時間だけではありません。環境面に配慮しCO2の排出量も42%削減しています。CO2削減のために工場の構造が見直されており、生産ラインの長さを短くしたほか、塗装ドライブースでの空調リサイクルをしたり、太陽光発電を取り入れたりと様々な工夫をしています。
ただ単純な「効率化」と聞くと、コスト圧縮という狙いが強いように感じますが、京都工場では、生産工程を効率化することで、カーボンニュートラルへ近づいたことがアピールできるのも特徴といえます。
京都工場に入って最初に驚いたのが、建物内で大きな空きスペースがあることです。これは、生産工程の見直しをして工程が短縮化したことにより、生産に必要とする面積が小さくなったからとのこと。
このように必要とする面積が小さくなったことが目に見えて分かると、照明設備を始めとした生産に必要なエネルギーを使う設備が減り、省エネルギー化にもつながるとう訳です。ちゃんと効率的に考えて作られていることがうかがえます。
ただ、この工場にはもっと驚くべき点がありました。なんと、生産されていく車体が横向きで流れていたのです。
横送りで車体が流れる意味とは?通常、自動車生産ラインでは、車体が縦にラインを流れていくのが一般的です。しかし、ダイハツが生産するのはサイズの小さなクルマが中心となっています。サイズが小さければ、車を横でラインに流すことが可能だと考えたダイハツはこれを実施しました。

ロボットによりスポット溶接される車体(画像:ダイハツ)
車体を横にしてラインを通すと、同じ台数の車体を縦向きで流すよりも、生産ラインを短くすることができます。この変更で余ったスペースを効率的に使用することが可能となったのです。これは、クルマの製造工程を知っている人ほど、驚かされる光景といえるでしょう。
もちろん、工場の効率化によって地球環境以外にも“配慮された”部分があります。工場作業員の勤務環境です。
ここでは、内板塗装やシーラーなど手塗りであった工程を自動化したほか、内装の取り付けなどこれまで車内でしゃがんで入り込んでいた工程では「ラクラク椅子」と呼ばれる椅子を導入するなど、「働く人に優しい工場」へと生まれ変わっています。
こうした働きやすさ向上への工夫は、空調システムの完備という点にも見られます。熱を発する塗装乾燥工程は4階に配置されており、暖かい空気は上に上るという特性を生かして、電力消費の少ない空調稼働になるようなレイアウト工夫も行っているとのことです。
さらに、これまで車種ごと採用されていた治具を撤廃し、新しい車種にも短い時間で対応できるような汎用ラインとなっています。他にも検査工程の一部にAI技術を試験的に導入し、絶えずアップデートするといった取り組みがなされています。こうした技術により柔軟に進化し続けられる工場となっています。
SSCの考えの下、生まれ変わったダイハツの京都工場は、小さなクルマを作る自動車会社だからこそできる工夫に溢れた工場となっていました。この考えはダイハツが持つ海外の工場でも導入されており、他の工場でも随時取り入れられていくようです。