韓国と戦闘機の共同開発を進めていながら“不義理”が目立つインドネシアが、さらに別の国へ接近。しかしそれは、かつて両国を“フッた”国でした。

3国と周辺国を交えた「戦闘機模様」は、まるでラブコメのように複雑な様相を呈します。

インドネシアの「二股」公認? いや二股どころじゃなかった!?

 2025年4月10日、トルコを訪れたインドネシアのプラボウォ・スビアント大統領は、トルコが開発を進めている「カーン(KAAN)」の開発にインドネシアとして参加したい意向を表明しました。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領との首脳会談後、共同会見で明らかにしたもので、スピアント大統領はトルコが進めている潜水艦の開発にも加わりたいとも述べています。

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2022年に初飛行したKF-21の単座型試作機(画像:韓国防衛事業庁)。

 ただ、インドネシアは2014年から韓国と戦闘機KF-21「ポラメ」の共同開発を進めています。

 トルコのカーンはF-35などと同様、高いステルス性能と高度な火器管制装置を兼ね備えた「第5世代戦闘機」を目指して開発が進められています。対してKF-21は、ステルス性能が限定的で「第4.5世代+」に分類されるものです。

 用途や輸出市場での競争力などが丸かぶりしているわけではないのですが、経済成長が著しいとはいえ、まだまだ財政的には苦しいインドネシアに「二股」をかける余裕はあるのでしょうか。

 実のところ韓国とインドネシアのKF-21の共同開発のパートナーシップは、解消寸前のところまで来ています。

 韓国とインドネシアにおけるKF-21の共同開発は、インドネシアが開発分担金を出資する見返りに、韓国がKF-21の完成機と技術資料をインドネシアに提供し、インドネシアはそれを利用して国産戦闘機「IF-X」を開発するというものでした。

 当初インドネシアは約1兆6000億ウォンの支出を韓国に約束していましたが、その払い込みは数次に渡って遅れたうえに、値切り交渉まで行っています。

 インドネシアはKF-21への出資金の支払いが遅れた理由に、自国の経済状況を挙げています。

しかしその一方で、インドネシアは2022年2月にフランスからダッソー・ラファール戦闘機を42機導入すると発表。2023年8月には米ボーイングとの間で、F-15EX戦闘機を24機導入する覚書に署名しています。

よりによってトルコに接近…?

 前出した出資金問題に関しては韓国が譲歩し、KF-21開発の主契約社である航空機メーカーのKAI(韓国航空宇宙産業)は技術資料を持ち帰るインドネシア人技術者10名を受け入れていました。しかし、このうち5名が2024年12月に持ち出しの認可されていないKF-21関連の資料6600件が入ったUSBデバイスを外部に持ち出そうとして書類送検されています。

まるでラブコメ。韓国とインドネシアの戦闘機模様
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2024年に初飛行したトルコの国産戦闘機カーンの試作機(画像:TAI)。

 こうしたこともあり、2025年4月現在、韓国とインドネシアのパートナーシップは解消していないものの、解消されるのではないかとの見方が強まっています。

 インドネシアは国内航空産業の育成に力を入れており、仮に韓国とのパートナーシップを解消することになるのであれば、別のパートナーを見つけようとするのは自然な流れと言えるのですが、実のところインドネシアが秋波を送るトルコには、21世紀初頭に韓国から戦闘機の共同開発を持ちかけられて断った、言わば「韓国をフッた」という過去があります。

インドネシア×トルコ 韓国は気にしない!?

 KF-21の開発構想は2001年3月、金大中大統領(当時)が空軍士官学校で行った演説の中で発表されています。

 その開発費用は当初6兆ウォンと見積もられていました。KF-21の研究が本格化した2000年代の韓国の国防費は20兆ウォン台で推移しており、6兆ウォンという開発費は、当時の韓国にとって小さな負担ではありませんでした。

 このため韓国はインドネシアと並行してトルコへも共同開発をもちかけたのですが、トルコは「対等な立場での共同開発は困難」との理由から共同開発には参加せず、単独でカーンを開発する道を選択しました。

 つまり、トルコは韓国と同時に、インドネシアも一度は“フッた”という見方ができます。

そのインドネシアがいま、トルコに秋波を送っているのですから、韓国はさぞ面白くないだろうと思ってしまうかもしれません。

 ところがどっこい韓国は、既にKF-21の新しいパートナー候補国を見つけています。

横から寄り添うサウジ 「いったい何角関係だよ!?」

 4月15日に韓国はUAE(アラブ首長国連邦)と、「KF-21包括協力に関する意向書」への署名を行っています。この意向書にはUAE空軍がKF-21の訓練に立ち会い、韓国空軍関連部隊を訪問することなどが含まれていますが、海外メディアは、この協力がそのまま共同開発に進むのではないかと報じています。

まるでラブコメ。韓国とインドネシアの戦闘機模様
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KF-21の包括協力意向書に署名した韓国空軍参謀総長(左)とUAE空軍防衛司令官(画像:韓国空軍)

 韓国にとっては金払いにも機密保持にもルーズなインドネシアより、オイルマネーで経済的に安定しており、韓国防衛産業の上得意先でもあるUAEの方が良いパートナーでしょうし、自国の航空防衛産業の育成を進めているUAEにとって、技術移転が見込めるKF-21の共同開発への参加は、悪い話ではありません。

 また別の話ですが、UAEのお隣サウジアラビアが、トルコからカーンを購入する意向を示しています。ただこれは、日英伊の進めている第6世代の新戦闘機開発計画「GCAP」に加わるための「当て馬」としてカーンを利用しているふしもありそうです。

 韓国とUAEの接近、そして韓国との関係が崩壊寸前なインドネシアと、かつてインドネシアをフッたトルコの接近、さらに横からトルコへ近づくサウジアラビア――当事者(国)にとっては自国の防衛と産業を左右する真剣な話なのでしょうが、「なんだかドラマやアニメのラブコメみたいだな」と思ってしまうのは筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)だけでしょうか。

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