旅客船や自衛隊の艦艇など、艦艇の主要なデータを確認したとき、最初に表されているのが「排水量」です。これには一体どのような意味があるのでしょうか。

「排水量」よく聞くけどこの意味は?

 旅客船や自衛隊の艦艇など、艦艇の主要なデータを確認したとき、最初に表されているのが「排水量」です。ほかに記されている全長や全幅などに関してはイメージしやすいのですが、この排水量に関してはあまり馴染みがありません。一体どのような単位なのでしょうか。

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改修を終えた後の護衛艦「いずも」(画像:海上自衛隊)

 排水量というのは簡単にいえば「船の重さ」を表したものです。例えば、仮に船が入るほどの大きな水で満杯の水槽があるとします。その水槽に、船を浮かべた際に外へ“排出される水の量が”その船の重さになります。

 これは古代ギリシャの数学者アルキメデスが、風呂に入ったときに自分の体積で風呂の水があふれたことにより発見されたという「アルキメデスの原理」を基にした計算方法です。船や艦は大きく重く、それらの計量するツールが存在しません。そのため、このような算出方法が取られます。

 ただし、前述のように本当に船を水槽に入れて計測するのは不可能で、海水と淡水では比重が違うという問題もあります。そのため、現代では設計段階で、その設計図を基に算出されるのが一般的です。

 では、「排水量」はいったいどのような状態で計算されるのでしょうか。

 現代では4つの計算方法が知られています。まず、一番わかりやすいのは「満載排水量」です。

 これは燃料、バラスト水、貨物、弾薬、乗員乗客など、その艦が設計上搭載できるものをすべて積み込んだ状態で計算された排水量です。この数値は世界の海軍で広く浸透しており、アメリカ海軍ではこの満載排水量を「設計排水量」と呼んで使用しているほか、日本の海上自衛隊も基本的のこの満載状態を排水量の基準ひとつとしています。

 ただ、旧日本海軍に関しては別の計算方法を用いた排水量の値を使っていたことがあります。これが「常備排水量」と呼ばれるものです。ここでは、戦場となる海域に到着した際に最大の能力を発揮できる状態を排水量とするもので、弾薬の3分の2、燃料の4分の1、バラスト水2分の1を搭載状態での重さとなります。日本海軍ではこれを公試排水量と呼び、設計排水量として使用していました。

基準と満載を併記する理由とは

 またかつて、多くの国の海軍で一般的に使用されていたのが「基準排水量」です。基準排水量は満水排水量から燃料やバラスト水などを引いた状態の排水量です。

船や軍艦の「排水量」ってナニ!? 同じ船でも「いろいろアリすぎ…」になっちゃったワケ
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アメリカ級強襲揚陸艦。同艦は満載時とそうではない状態が大きく違うため、満載と基準排水量が併記されている(画像:アメリカ海軍)

 この基準排水量は1923年に発行されたワシントン海軍軍縮条約において、各国の軍艦の大きさを統一スケールで比較するために用いられた排水量です。

なぜ、統一したかというと、軍縮条約の条文で「〇国はこのクラスの艦は基準排水量○○トンまで」と定められた関係で、申告した際に、すぐわかるようにしたかったからです。

 第二次世界大戦後は使わなくなった国もありますが、未だに空母や揚陸艦など、多くの兵員、車両、航空機、兵器を搭載するため、荷物や物資で重量が大きく変動する艦艇に関しては、満載排水量と併記する形でこの基準排水量を使用しています。

 海上自衛隊でもこの基準排水量と満載排水量を公表していますが、基準排水量の算出方法は「満載状態から、燃料・真水・消費補給物品(糧食・弾薬など)・バラストなどを除いた状態における排水量」と定義しています。戦前に発効された条約は失効しているため、現在は算出方法も各国によって差があり、正確に比べることは難しそうです。

 なお、海上自衛隊ではこの基準排水量は重要な意味を持ちます。名前が付けられる前の計画・建造段階の艦艇を、この基準排水量を通称として呼ぶ慣習が根付いているためです。

 例えば2013年8月に命名式を行い進水した「いずも」は、それ以前は「平成22年度計画1万9500トン型ヘリコプター搭載護衛艦」と呼ばれていました。FFMという新たな艦種として生まれた「もがみ」型は、研究段階では「3000トン型護衛艦」と呼ばれていましたが、研究が進むにつれて、目的や運用方法が定まってくると「3900トン型」と呼ばれるようになっていきました。

 最後に紹介するのが「軽荷排水量」です。これは、船から弾薬・燃料・水などすべての消耗品を搭載しない状態の排水量です。民間船ではこの軽荷排水量が基本的に大きさや重さの指針になっています。

 民間船は特に航海や寄港する際、船の保険、運行規模、税金、港の使用許可など細かい手続きが必要です。

その際の金額や許可の有無の基準となっているのが、この軽荷排水量です。なお、この軽荷排水量の状態で船を水に浮かべると、多くの船は船底の浮力が強すぎて、転覆してしまいますので、計算上でしか存在しません。

 艦艇は、この状態からバラストタンクにバラスト水を入れて、重心を下げてようやく水に浮くことができるのです。このバラスト水を入れた状態の排水量を「補填軽荷排水量」といいます。

 なお、すべての排水量で共通して、乗員も船の重量として計算されています。最初に排水量は船の重量とお伝えしましたが、乗員がいなければ、船はただの浮かぶ箱。乗員も含めてやっと、艦船として成立するというわけです。こうした点は、船らしく面白い計算方法となっています。

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