下町の住宅街を縫うように走っていた都電荒川線が、一部で大きく変わりつつあります。線路の両側に道路が建設され「併用軌道」に生まれかわろうとしています。
都内で唯一残った都電の「荒川線」。一部区間は道路と併走するなど、併用軌道としてかつての路面電車の風情を残していますが、それ以外の区間は専用軌道で、北区から豊島区にかけては細い路地が行き交う住宅密集地を縫うように走っています。
都電の脇に道路を通す補助第81号線。路盤の白い部分で「インファンド工法」を採用。ここには事業中の「補助第176号」がサンシャインシティ側から伸びてきて交差点が設けられる(植村祐介撮影)
ところが、こうした専用軌道の一部が、その姿を大きく変え、併用軌道に生まれ変わろうとしている区間があります。
東京都は現在、国道254号「春日通り」の「向原」交差点から、都道435号「日出通り」の「東池袋駅前」交差点まで、荒川線に沿って延長610m、幅員25mの道路を新設する「補助第81号線(東池袋地区)」の事業を進めています。
従来、この区間の荒川線は「向原」電停から「東池袋四丁目」電停まで専用軌道で、その荒川線に沿って人が通行するための路地がところどころにある状況でした。周囲は古い住宅地で、道路は狭く、クルマの通り抜けに適した形とはなっていませんでした。
この事業は、荒川線の軌道を挟む形で双方向に幅員約5.5mの車道、約3.7mの歩道を整備し、かつ水道、下水道、ガス設備、電線共同溝も設置します。そして地域の防災性の向上と都市環境の改善を目指すことを目的としています。
また補助第81号線の整備にともない、現在この区間にある踏切は廃止となり、道路との交差部に5か所の信号が設置される予定です。
そして完成後は、国道254号と都道435号が短絡されることになり、「サンシャインシティ」付近の交通混雑が緩和することも期待されています。
事業の開始は2005年度で、まず線路の左右の土地を道路用地として買収し、その後、道路の整備を進めています。整備後は荒川線が道路の中央を通る形となりますが、一部区間では荒川線の上下線を段階的に仮線へと移設して作業スペースを作り、道路や新たな路盤を設置し、それらの作業が完了したのちに線路を道路の中央に戻すという工法も採用されています。
では現在、この区間の状況はどうなっているのでしょうか。向原から東池袋四丁目まで、現地を歩いて確認してみました。
もうすぐ「道路の仕上げ」に?まずは向原交差点付近の補助第81号取付部です。ここはかなり早期に用地買収が進み、荒川線を挟むように緑色のネットで囲まれた空き地が広がっていましたが、現在は線路に沿って仮歩道が整備され、雑司ヶ谷方面まで見通せるようになっています。

仮歩道にはこのような注意書きが各所に。ただし実際には乗ったまま走り抜ける自転車は多い(植村祐介撮影)
そのまま線路沿いを歩くと、サンシャインシティと不忍通りをつなぐ「坂下通り」に設けられた「9号踏切」まではすぐです。
9号踏切の下り線(早稲田方面)側には新築マンションが建ち、その植栽と荒川線の線路との間には歩道および車道となる整地されたスペースが現れます。
さらに南に進むと、先に述べた「仮線への移設」が行われた箇所になります。荒川線は早稲田方面に向けて右に緩やかにカーブしていますが、仮線に移設され、沿線の住戸の軒先をかすめるように進む下り線と、すでに本線への切替工事が終わった上り線との間には、広い空間が生まれています。
この区間には、一部でコンクリート敷の路盤に設けられた溝にレールを埋め込み、樹脂を流し込んで固定する「インファンド工法」が採用されています。
下り線の本線への移設は9月が予定されており、それが終わると下り線側の道路の整備が本格的にはじまることとなります。
この緩やかなカーブを曲がると、日出通りの南側に並行する「首都高5号池袋線」の高架が見えてきます。この区間では、上り線側の道路スペースはほぼ路盤が完成していましたが、下り線側はほぼ手つかずです。そして仮歩道も、上り線側のみ、日出通りまで通り抜けることができます。
向原電停から東池袋四丁目電停まで、仮歩道は一部を除き整備済みですが、その幅員は目測で1.2mほどしかないところもあり、各所に「自転車・バイクは押して歩いてください」との路面ペイントが施されています。ただ実際には乗ったままで通り抜ける自転車も少なくありません。現地を訪ねる際はご注意ください。
明治通りの「バイパスのバイパス」になお、補助第81号線は東池袋四丁目電停から先もさらに荒川線に沿って南西へ続き、現在事業中の「環状第5の1」に合流します。
環状第5号の1は、池袋駅東口を南北に貫く「明治通り」のバイパスとなる路線で、都電および地下鉄副都心線に沿って、地下の本線と地上の側道のセットで建設が進められています。その地上部は環状第5号の1と、都電+補助81号線がY字に分岐する形となります。
補助81号線は池袋駅から見て、その環状第5号の1ルートのさらに外側(都心側)をいき、春日通りや明治通り上池袋方面に連絡するバイパス的な役割も果たすことになります。