二輪・四輪とも、他社にはない独特の個性派モデルを輩出してきたスズキ。同社の車やバイクの熱狂的なファンのことを、ネット上では「鈴菌」と呼ぶことがあります。
二輪・四輪とも、他社にはない独特の個性派モデルを多く輩出してきたメーカー、スズキ。「一度スズキに乗ると、他のメーカーのバイクやクルマには乗れなくなる」と評されることもあり、こういった熱狂的なスズキファンに対し、ネット上では「鈴菌」と言われることがあります。
感染力は強くはなさそうだが、一度かかると病気が長引くと言われる「鈴菌」とは一体!?(画像:スズキ)。
「鈴菌」は、インターネット掲示板サイト「2ちゃんねる」のバイクスレッドで生まれた呼称で、主にスズキのバイクファンに対して使われていましたが、現在では同社のクルマのユーザーに対しても同様に使われるようになりました。
他の二輪・四輪メーカーのユーザーからすると確かにスズキのモデルは独特に感じることが多く、「スズキのツボや魅力がどこにあるのか理解できない」といった声も少なからずあります。しかし、一方の「鈴菌」感染者たちは、こういった声に全く動じることなく、むしろ誇らしげにも思い「まぁ、わからないでしょうね」と鼻で笑う人も多くいるように感じます。
ここでは、こんな言葉にしにくいスズキの魅力に熱を出し続ける、自他ともに認める「鈴菌」感染者・松風さんに解説いただきながら、その全貌に迫ります。
一般に「鈴菌」感染者は、スズキのバイク、クルマが普及する東海エリアに多いと言われ、松風さんも愛知県名古屋市在住です。現在50代の松風さん、じつは当初はホンダ愛好家で、学生時代からホンダのスクーターを発端にバイクを嗜むようになり、CB400SS、CB750RC42などを所有していました。特にCB750RC42では複数回に分けて日本縦断を実施するなど、ごく一般的な「ツーリング好きなバイクユーザー」だったと言います。
しかし、CB750RC42からの乗り換えで、スズキのVストローム650を新車購入してから、一気に「鈴菌」に感染したとか。
「実はクルマも初代ワゴンRを新車で買って乗っていた時期があるのですが、これは特にこだわりはありませんでした。しかし、ツアラー的な使い方をすると、尻が痛くなるCB750RC42に少し不満があり、その乗り換えとしてVストローム650を購入してからは、こういった不満が全くなくなりました」(松風さん)
Vストローム650は大型バイクにしては軽く、高燃費で、名古屋から鹿児島の霧島市まで1000km走っても疲れにくいのが魅力だったといいます。
「当初、スズキ車は未知の世界で特に意識していなかったのですが、知人ライダーの勧めもあって複数回試乗し、YouTubeのインプレ動画や賀曽利隆さん(冒険家・バイク作家)の記事によってVストローム650を選びました。本当に良いバイクで気に入っています」(松風さん)
「色気がある」「セクシーな」スズキって?全く意識外だった異性の人が「ズバ抜けて良い人だった」と知ると一気に熱が高まる恋愛と、「鈴菌」感染症はどこか似ているかもしれません。松風さんは、程なくしてもう1台、スズキ製スクーターのスウィッシュ(125cc)を購入します。

松風さんが乗っていた初代ワゴンR。この時点では「鈴菌」に感染していたわけではなかったとか(画像:スズキ)。
しかし、スズキを愛するがあまり、松風さんはこんな話も。
「スウィッシュも気にいっていますが、ただ顔は異形ですね(笑)。Vストローム650のエルゴデザインも市場ではいまいちウケなかったようですが、でも、そんなところもまたスズキ車の魅力です」
「隼や刀は別として、スズキ車には『見せびらかして優越感を得る』ようなバイクが少なくて、基本設計がしっかりしていて、ライダーの個性や感性を上手に引き出してくれるモデルが多いと思うんです。それでいて、なんとなく色気がある。そこがスズキ車の特徴ではないでしょうか」(松風)
ちなみに、松風さんの記憶に強く残るバイクは、バンディット250LTD(ロケットカウル付)、RF400RおよびRF600R、SV400SおよびSV600S(ハーフカウル付)とのこと。
「色気がある」「セクシーだ」といった話は「鈴菌」感染者以外の方が完全に理解するのは難しいかもしれません。しかし、この「門外漢にはちょっとわからない」感じもまた「鈴菌」の特徴かもしれません。
「鈴菌」感染者あるある4選って…!?松風さんによれば、「鈴菌」感染者には以下のような「あるある」が見られるとも言います。
●「鈴菌」あるある1 スズキの湯呑みを持っている
スズキの公式グッズの湯呑み。寿司屋の湯呑みを模したもので、表面に「鈴木」「鱸」「二輪」「Sマーク」などが配列させたモノ。「鈴菌」感染者のマストアイテムです。
●「鈴菌」あるある2 漫画『キリン』を読んだことがある
初期の作品では主人公がスズキの刀にまたがり、ポルシェ911カレラと公道でのバトルを繰り広げる。「漫画自体を持っていたり、映画化された作品を観たりしたことがある『鈴菌』感染者は少なくないでしょう」と松風さん。
●「鈴菌」あるある3 賀曽利隆さん、ノアセレンさんを知っている
前述の賀曽利隆さん(冒険家・バイク作家)は様々な冒険にスズキのバイクを使用。ノアセレンさん(バイクライター)は松風さんと同じVストローム650を所有しています。
●「鈴菌」あるある4 『motorise』より『週刊バイクTV』に親近感を覚える
BSのバイク番組のうち、ホンダやヤマハのバイクが多く登場する『motorise』より、スズキのバイクを、他メーカーと同等または熱心に紹介する傾向がある『週刊バイクTV』に親近感を覚える「鈴菌」感染者は多いのだそうです。
強くスズキを愛する「鈴菌」感染者の松風さん。やはり、感染力の強さには自覚があるそうですが、「鈴菌」感染者の間で、まことしやかに語り継がれる話も最後に教えてくれました。
「他人に『鈴菌』をうつすと、自分の『鈴菌』が治るという説があります。なので、所有するスズキ車の素晴らしさを、まだ感染していない人にどんどん教えて、感染者を増やしていくと、やがて『鈴菌』を克服する日が訪れるかもしれません(笑)」
つまりは、スズキが大メジャー車、大ヒット車ばかりをリリースするようになった日が来た際には、現在の「鈴菌」感染者は離れていく――というようにも感じました。「スズキの良さ、本当のバイクの良さを自分だけが知っている感」こそが「鈴菌」感染者の特徴なのかもしれません。