国内初の水素燃料電池船「HANARIA」が、海事関係の見本市「バリシップ」の舞台である今治港に出現。外観も中身も“未来に全振り”した異形の船舶です。
商船三井グループの商船三井テクノトレードは2025年5月21日、同社が保有する水素燃料電池船「HANARIA」を今治港(愛媛県今治市)で報道関係者に公開しました。「HANARIA」は水素とバイオディーゼル燃料を使用して商用運航する国内初の旅客船。環境対応への取り組みと先進性が高く評価され、今回、「シップ・オブ・ザ・イヤー2024」を受賞しました。
今治港に停泊中のHANARIA(深水千翔撮影)。
商船三井テクノトレードの福島正男社長は「水素で走る船を代表してシップ・オブ・ザ・イヤーをいただいたという気持ちがある。ぜひこれを機に船舶燃料としての水素に注目してほしい」と話しました。
「HANARIA」は本瓦造船で2024年3月に竣工しました。総トン数は238トンで旅客定員は103人。動力源として水素燃料電池2基とリチウムイオンバッテリー2基、ディーゼル発電機1基を搭載しています。船主は商船三井テクノトレード。関門汽船が用船して門司港や小倉港を発着する周遊クルーズなどで運航を行っています。
電気推進方式を採用することによって、従来の内燃機関を搭載する船に比べて振動・騒音を大きく低減。
さらに 2機2軸、2つのプロペラで推進するシステムを採用し、仮に片方が壊れた場合でも 70% 程度の速力を維持することができます。船首と船尾にはスラスターを搭載しており、その場で旋回ができるなど高い操船性を備えました。
「水素燃料電池で走ることに加えて、『海の上に浮かぶ卵』ともいえるスタイリッシュな外観も特徴だ。客室も多目的に利用できるよう椅子の配置を考えた。セミナーに加えて、ここで結婚式をやってもらいたいなと思っている」(福島社長)
同船の最大の特長は、利用時にCO2(二酸化炭素)を排出しない水素を燃料として使用して航行できるという点にあります。航行時は水素燃料電池やリチウムイオンバッテリーを活用するゼロエミッションモードと、バイオディーゼル燃料も使用する通常運航モードをシームレスに切り替えることが可能。従来の軽油100%使用船と比較すると、CO2の排出量をハイブリッドモードでは55%、ゼロエミッションモードでは100%削減できます。
アブラも使える海の「MIRAI」福島社長は「ゼロエミッションの達成に向けては、アンモニアなどさまざまな選択肢がある。その中でも我々は非常にクリーンなエネルギーである水素に着目し、ぜひこの水素でゼロエミを達成したいという思いがあった」と強調します。

HANARIA船内で記者会見をする商船三井テクノトレード福島社長(深水千翔撮影)。
また、「HANARIA」に搭載されているヤンマーパワーテクノロジーの舶用水素燃料電池システムは、トヨタ自動車が生産する燃料電池自動車(FCEV)「MIRAI」用の燃料電池ユニットを活用して開発されたものです。
「舶用に転用する上で、陸上と船では技術的に求められるものが違うため、そこは非常に苦心している。さらに、船の中へ水素燃料電池船に関するすべての機器やシステムを収めることが大変難しかった」(福島社長)
「HANARIA」では5月22日から24日にかけて今治市内で開かれた国際海事展「バリシップ」に合わせ、一般公開や体験航海を実施しています。船尾には燃料となる水素が充填されたタンクが設置されており、丸みを帯びたユニークな船体形状と合わせて、来場者は未来の船の姿を間近で見ることができました。特に体験航海では、その静かさに乗船客から驚きの声があがっています
福島社長は「水素がこれから陸だけではなく、船の世界でも入ってきて、ゆくゆくはクリーンエナジーの一端を担うような時代が必ず来る」と述べたうえで、「今治にはたくさんの造船所がある。環境に優しい技術を世界から集めて今治地区へ持ってきたいと思っているので、ぜひ一緒に次世代の船を開発していきたい」と呼びかけました。