フルフラット座席「ソメイユプロフォン」を採用した夜行バスが注目を集めています。バスゆえの制約も感じられますが、同じ「宿泊する乗りもの」の寝台特急「サンライズ」と比較すると、様々な良さが見つけられました。
夜行バスで長年待ち望まれてきた「フルフラット」座席。それを初めて実現したのが、高知駅前観光の特殊座席「ソメイユプロフォン」です。前後の2座席が1ユニットになっており、座席の状態から上下2段の寝台へと変形します。
ソメイユプロフォンを備えた高知駅前観光の夜行バス「スマイルライナー」(左)と、JRの寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」(安藤昌季撮影)
現在、東京~徳島・高知間で週1回モニター運行をしており、「秋頃からの本運行に向けて、改良を進めている」(高知駅前観光)段階です。
現時点では試作品ともいえる「ソメイユプロフォン」ですが、それでも非常に画期的な座席といえます。その特徴は、同じ「宿泊できる乗りもの」で、かつ27年間運行されているJR唯一の寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」(285系電車)の座席と比較すると、より理解できました。
というわけで今回は、「唯一の寝台バス」と「唯一の寝台特急」を比べていきましょう。なお、この記事ではサンライズでも安価な座席「ノビノビ座席」や寝台「ソロ」を中心に比較していきます。
スペースは?→サンライズに軍配居住スペースは、圧倒的にサンライズが勝ります。ソメイユプロフォンは寝台の長さが177.5cm、幅が48cm、サンライズは最も狭いB寝台個室「ソロ」でも、寝台の長さが190cm、幅が52~70cmです。サンライズの“寝られる座席”である「ノビノビ座席」も、一人当たりの区画幅は85cmあります。

「サンライズ」のB寝台個室「ソロ」(安藤昌季撮影)
実際に寝転がった時のソメイユプロフォンは、シートベルトをしていることもあり、身長173cm、体重72kgの筆者(安藤昌季:乗りものライター)は、かろうじて寝返りが打てる程度。
とはいえ、細かな手荷物を置く場所は必要です。ソメイユプロフォンは、小さな荷物置き場が上段にあります。下段も座席の下に手荷物を収納できますが、「自分の区画から自由に起き上がる」ことが大変なので、取りに行くのは難しいでしょう。
筆者は肩掛けのポシェットなどに必要となるもの(試作品座席にはコンセントがないため、モバイルバッテリーや、飲み物、財布、スマートフォンなど)を入れていたことで、12時間の乗車中、特に不都合は感じませんでした。ちなみに、車内は消灯されるため、文庫本などを読むのは難しいです
サンライズは一番狭い下段「ソロ」の場合、入口に自分の荷物を置くと、寝台の上以外はほとんど自由なスペースがなくなります。そうなると、ソメイユプロフォンの居住性と大きな差は感じません。
ソメイユプロフォンと、サンライズの「ノビノビ座席」と比較した場合は、プライバシーの点でソメイユプロフォンが大きく勝ります。隣席との間にカーテンがない「ノビノビ座席」に対して、ソメイユプロフォンは頭上と左右にカーテンがあるので、個室感があります。
寝具は?→ソメイユプロフォンが勝るソメイユプロフォンがサンライズに大きく勝るのは、枕や寝台のクッション性です。ソメイユプロフォンには枕と毛布が備わり、寝台に分厚いクッションが敷かれていて、かなり快適な寝心地でした。

夜間は車内が消灯される「ソメイユプロフォン」(安藤昌季撮影)
サンライズで最上ランクのA寝台個室「シングルデラックス」でも、寝台のクッション性と枕の質では勝負になりません。
ソメイユプロフォンのクッション性と対等な鉄道の寝台は、クルーズトレインを除くと、かつてのブルートレインなどに見られた開放A寝台の下段だけで、寝台特急用客車の最高峰である「カシオペアスイート」や「夢空間」の「エクセレントスイート」にも勝ると感じました。
アメニティは?→ソメイユプロフォンが充実サンライズの付属アメニティは、シンプルです。A寝台個室「シングルデラックス」以外のB寝台個室は、枕、毛布、浴衣、シーツ、コップのみ。「ノビノビ座席」は、コップと毛布、枕カバーのみです。
ソメイユプロフォンは、枕、毛布、シーツ、アイマスク、耳栓、歯磨きセット、靴袋、スリッパ、フリーWi-Fiが提供されます。車内にトイレはあるものの洗面所はないため、歯磨きセットはサービスエリアなどでの休憩中に使うことになります。
アメニティではありませんが、サンライズには共用シャワーがあり、汗を流せればより快適に過ごせます。ただし「シングルデラックス」以外の利用でシャワーを使用するには、シャワーカードを購入する必要があり、特に下り列車では出発前にカードを求めて行列ができるのが難点です。
騒音・振動は?→サンライズが優勢乗り心地は、サンライズの方が快適といえます。ソメイユプロフォンは、あくまでも一般の夜行バスに特殊座席を付けた車両です。ソメイユプロフォンの下段は、一般の夜行バスと同様の乗り心地で、上段は独特の横揺れを感じます。
総合的に見ればサンライズの方が快適ではありますが、ソメイユプロフォンに2度乗車して、その快適性には驚かされる部分も多くありました。将来的に1+1列配置の個室フルフラット座席のような豪華仕様の寝台バスの実現を期待せずにはいられません。