排ガス規制により国内メーカーや大手インポーターが販売する新車から、公道走行可能なキャブレターのバイクは姿を消しました。しかし一部の輸入バイクにはキャブレター付きのバイクが存在します。

なぜ新車販売できるのでしょうか。

厳しい排ガス規制でキャブ装備バイクはほぼ絶滅に

 年々厳しさを増す排ガス規制により、いまや国内4大メーカーや輸入車の大手インポーターが販売する新車から、公道走行可能なキャブレターのバイクは姿を消しました。しかし、一部の並行輸入車や逆輸入車といった外国製バイクの中にはキャブレター付きが存在します。これらは排ガス規制に引っ掛からないのでしょうか。

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「甲斐駒センターせせらぎ」で開催された「礼子生誕祭2024」に集まったスーパーカブ(山崎 龍撮影)。

 そもそもキャブレターとは、エンジンの吸入時に発生する負圧を利用してガソリンを吸い上げ、霧状にして空気と混ぜ合わせ、できた混合気をエンジンへと送り込む燃料供給装置のことです。ガソリンは液体のままでは燃焼しにくいので、燃えやすい混合気にする必要があります。そこから、日本語では燃料気化器と訳されることもあります。

 機械式のキャブレターは、電子機器で制御するわけではないので構造がシンプルでインジェクションよりも部品単価が安く、メンテナンスが容易というメリットがあります。加えて、使用環境やユーザーの好みに応じて自由にセッティング可能なため、かつては二輪・四輪を問わずさまざまなガソリンエンジンに使用されていました。

 しかし、キャブレターには真冬や雨の日にエンジンがかかりにくくなる、標高の高い場所でプラグが失火するなど、温度や湿度、大気圧による影響で性能低下を起こしたり、定期的なメンテナンスが必要になったりといった弱点がありました。

 そのため、安定した燃料供給、高い燃費、クリーンな排気ガス、そして環境に左右されない安定した性能を持つ電子制御インジェクションに徐々に置き換えられます。

結果、1980年代の終わりには四輪車でキャブレターを採用するのは、安価な軽自動車やコンパクトカー、商用車などに限られ、それらも1990年代末にはほぼ姿を消しました。

 オートバイの場合は、2000年以降も小排気量車を中心に新車装着が続けられました。しかし、ヨーロッパで従来よりも規制値を大幅に厳しくした「ユーロ3」(欧州排出ガス規制の第3段階)がバイクにも適用されると、日本政府もこれに追随。それを受け2008年以降、オートバイの燃料供給装置はキャブレターからインジェクションへと順次切り替えられていきます。

 こうして、現在では「原則として」公道走行可能なキャブレターを採用したオートバイは新車購入ができなくなっているのです。

キャブレター装備の軽二輪・原付が今でも買えるワケ

 とはいえ、「原則として」と但し書きを入れたのは、じつはエンジン排気量250cc以下の軽二輪や、同125cc以下の原付バイクの一部でキャブレター車がいまだに購入できるからです。

なぜ販売できるの!?「排ガス規制で不適合なバイク」新車登録OKなワケ「法律の抜け穴ってホント?」
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4ストのオートバイやスクーターに多用されていた負圧式のCV型キャブレター(画像:パブリック・ドメイン)。

 もちろん、国内メーカーや大手外国メーカーの正規販売車両からは完全に姿を消していますが、海外から並行輸入されるスズキ「GN125H」やホンダ「CG125」、ヤマハ「PG-1」などの逆輸入車、あるいはフェニックス「ガンナー100/125」やAJS「キャドウェル125」のように国内で正規販売される輸入車の中にもキャブレター車は、ちらほら存在します。

 なぜ排ガス規制に適合しないキャブレター車が販売できるかと言えば、それは日本の車両登録制度に「特徴」があるからです。

 じつは車検のない250cc以下の軽二輪は、新規登録検査の必要がなく、通関証明書と輸入業者からの譲渡証明書を提出するだけで登録できます。排気ガス検査の必要がないため、規制基準を満たしていなくてもナンバー交付が受けられます。

 125cc以下の原付はさらに手続きが簡単で、市町村が発行する標識交付証明書だけで登録できます。

これらのバイクの登録書類には初年度登録の欄がなく、直近に手続きした年月日しかわからないため、排ガス基準の不適合を理由に行政の取り締まりを受けることもありません。

 つまり2025年現在、新車で販売されているキャブレターの軽二輪と原付は、法律の不備をついたグレーゾーンのオートバイといえるでしょう。しかし、筆者(山崎 龍:乗り物系ライター)はこれを脱法バイクとして糾弾するつもりはありません。

 もともとオートバイは、庶民の安価なアシとして高度経済成長期に普及した乗りものです。ところが、政府がいたずらに規制を強化した結果、現在の125cc以下の原付二種は車両本体価格だけで50万円に達するものが珍しくなくなりました。そのような高額化した正規販売車に比べると、並行輸入や逆輸入で日本に入ってくるキャブレター車の値付けは半額程度と圧倒的に安く買えるのです。

 これは、法に従って大金を費やして自社製品の規制適合を行っている国内メーカーや正規インポーターにとっては不公平なハナシです。しかし、筆者に言わせれば小排気量のオートバイに厳しすぎる規制をかけることは、ナンセンス以外の何ものでもありません。

キャブレター装備のバイクは生活防衛のためのライフハックだ!

 国内を走る全車両に占めるバイクの割合はわずか10%ほどに過ぎず、トラックやバス、乗用車などと比べてバイクの排気量はずっと小さいのです。

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燃料供給装置にキャブレターを使用したスズキ「GN125H」。2000年代にスズキとライセンス生産契約を結んだ中国の大長江集団(ハオジュン)が製造した車両が並行輸入業車によって多数日本に上陸。新車が安価に販売された(山崎 龍撮影)。

 排気量が小さいということは排気ガスの量も少なく、仮にCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、NOx(窒素酸化物)などの濃度が多少濃いとしても、台数的にも少なく、エンジンの小さなオートバイによる環境負荷などたかが知れていると言えるでしょう。

 にもかかわらず、コスト的にも見合わず、効果が薄いのにもかかわらず、日本政府は厳しい規制をバイクに課しました。その結果、何が起こったかと言えば、先述したような新車価格の高騰です。

 それでも経済的に日本が豊かならまだ許容もできるのでしょうが、現実には日本政府の無策により、国民の平均所得は30年間据え置かれたままで、税金や社会保険料は年を追うごとに値上げされており、おまけに昨今の物価高やガソリン価格の高騰で庶民の生活はますます苦しくなっています。

 このまま日本経済が悪化を続ければ、遠からず私たちは軽自動車すら買えなくなるかもしれません。そうなれば、公共交通が整備された都市部はともかく、地方在住者はこのような安価なミニバイクでも使わない限り、移動の自由を完全に奪われるようになるのではないでしょうか。

 民主主義とは権力を監視し、政府が間違った政策を打ち出したときに選挙によって有権者が異を唱えることができるシステムです。ところが、日本においては政治家や官僚が既得権益によって自縄自縛に陥っているため口を開けば増税と発するばかりで、政治に民意を反映させることが事実上できなくなっています。

 だとするなら、生活防衛のために法律の不備をついてのライフハック、ささやかな抵抗手段として、このようなグレーゾーンに庶民が手を染めることは、社会が容認できる範囲のものだと筆者は考えるのです。

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