パリ航空ショーの出展ブースに一本の巨大な筒が置いてありました。この筒、じつは昨今の戦闘機の運用構想の変化にとても大きく関係していているといいます。

しかも最近、自衛隊も購入したとか。どんな使い方をするのでしょうか。

戦闘機に「荷物入れポッド」が必要な理由

 2025年6月16日からパリのル・ブルジェ空港で開催されている「パリエアショー」(パリ国際航空宇宙ショー)において、アメリカの防衛企業キホマック社はF-35「ライトニングII」で使える最新型のトラベルポッド「MXU-1072/A」を展示しました。

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航空自衛隊第302飛行隊のF-35「ライトニングII」。写真の機体は記念塗装機で、通常塗装ではロービジで小さくなったオジロワシのマークが、大きくフルカラーで再現されている(布留川 司撮影)。

 これは、見た目こそシンプルな筒状のケースで、展示の仕方もテーブル上に無造作に置かれた質素なものであり、そこだけ見ると戦闘機に搭載される装備品とは思えません。しかし、これはF-35の運用を広げる重要な存在で、航空自衛隊もその有用性を認めて導入を決めています。

 そもそもトラベルポッドとは、戦闘機のパイロンに搭載される荷物入れです。戦闘機のコックピットは非常に狭く、そこには旅客機と異なり荷物を入れられるスペースはありません。そこで用いられるのがトラベルポッドです。これは、一見するとドロップタンクや爆弾のような形をしていますが、内部は空洞になっており、ここにコックピットに持ち込めない大きな荷物を入れることができます。

 ただ、ステルス戦闘機であるF-35ではステルス性確保のためにすべての兵装は機内のウェポンベイに収納されるため、既存のトラベルポッドを搭載できませんでした。

今回展示されたMXU-1072/Aは、F-35のウェポンベイに収納できるよう特別に設計されており、F-35のステルス性を損なうことなく使用することができます。

 また、構成素材にカーボンファイバーを採用したことで軽量に仕上がっているほか、製造コストの削減や生産性も向上しています。内部も従来の戦闘機用トラベルポッドと比べて2倍以上の容量があり、ポッド側面には複数の開閉式パネルも用意されているため貨物を迅速かつ容易に出し入れ可能です。さらに固定用のレールが付いているため、それを使って重量物や精密機器を固定すれば飛行中に動くこともありません。

航空自衛隊も購入したと明言が

 アメリカ空軍では、F-35Aで運用するために260個のMXU-1072/Aを導入しており、アメリカ海軍でも艦載型のF-35Cで使うために運用試験用として4個、調達しています。アメリカ海兵隊が使っているF-35Bについては、ウェポンベイの形状が異なるため、MXU-1072/Aを搭載することはできませんが、技術的にはB型に適応した新しいポッドを開発することはできるそうです。

自衛隊も買った! F-35戦闘機用の「必須装備」一見ただの筒 じつは新戦術に大貢献「パイロットの負担軽減にも」
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アメリカ空軍の整備員とMXU-1072/A(アメリカ空軍)。

 実は、このポッドは単なる荷物入れではなく、アメリカ空軍が近年採用しているACE(機動的戦闘運用)と呼ばれる新戦略にも必須の装備です。ACEとは、特定の空軍基地が攻撃を受けた場合に備えて、小規模な部隊を一般空港や仮設拠点に分散展開させるという運用方法で、戦闘機を支援設備のない場所に移動させて活動させることもあります。

 そのため、戦闘機自体にも運用に必要な工具や資機材を自機で運搬することが求められることから、MXU-1072/AはF-35にその能力を付与するための必需品だといえるでしょう。

 なお、キホマック社によると、日本向けに10個のMXU-1072/Aを出荷済とのことなので、航空自衛隊のF-35Aでもこのポッドが使われることになる模様です。日本も中国や北朝鮮による弾道ミサイルや巡航ミサイルの脅威にさらされており、航空自衛隊もそれらによって基地が被害を受けることを前提として、ACEに準じた機動的な戦闘運用の導入を進めています。

 航空自衛隊がMXU-1072/Aを導入したのも、その流れを象徴するものの1つといえるでしょう。

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