トヨタ「クラウン」の旧モデルで見られた、あまりにも派手な、真っピンク色の車体。これはカスタム車ではなく、トヨタが公式にラインアップしたものです。

なぜクラウンをピンクにしよう、と思ったのでしょうか。

なんと1か月の注文期間で約650台を販売

 数年前、都内で真っピンクのクラウンに遭遇したことがありました。あまりの派手さに、物好きなオーナーが、「ピンクに変えちゃおう♪」とオールペンしたのだろうと思ったものです。しかし、その後も同じ真っピンクのクラウンを見かけることがありました。「ん? もしかしてカスタムショップのコンプリートモデルなのかな?」とも思ったのですが、実はトヨタの公式モデルだったのです。

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2013年にリリースされた特別仕様車のクラウン「リボーン・ピンク」。2025年(松田義人撮影)。

 14代目クラウンの特別仕様車だったアスリートGをベースに誕生した、真っピンクのクラウン。「リボーン・ピンク」の名で登場しました。当時のトヨタの社長、豊田章男氏が、『ドラえもん』の「どこでもドア」をイメージして、特別仕様車にラインナップしたものでした。

 最大の特徴であるピンク色は「モモタロウ」と呼ばれる特別設定色。演出家・テリー伊藤氏がカラーコーディネートを手掛け、内装にも随所にピンクの差し色が加えられています。

内装は白と黒を基調とした落ち着いた雰囲気で、外観の派手さとのコントラストが際立っています。

 同車は期間限定の受注販売で、申込期間は2013年の9月1日から30日までの1か月のみ。結果的に約650台が販売されましたが、その外観のインパクト同様、前代未聞のタイトな注文期間もまた、業界の度肝を抜きました。

「映え」を狙った説と、X世代にウケた事実

 以下はあくまでも筆者の推測ですが、この真っピンクのクラウンのリリースにあたっては、当時若者を中心に広まっていたSNSでの「映え」を期待した試みだったのではないかとも思います。

「前代未聞のピンク色のクラウンがSNSで話題になる」→「マスコミも取り上げる」→「クラウンブランドが改めて注目を浴びる」→「クラウンの宣伝になる」

 こんなうがった見方もある一方で、「クルマとはこうあるもの」という先入観が薄いX世代(1965年~1980年ごろに生まれた世代)の女性に大ウケしたともいわれています。筆者の邪推よりも、トヨタの緻密なマーケティング、そして思惑が開発の背景にあったようにも感じます。

駐車場では周囲のクルマがモノクロに見えてしまう!?

 筆者は先日、名古屋のトヨタ博物館でこの真っピンクのクラウンの実車を見て、改めて衝撃を受けました。しかも、駐車場でも個人所有の同モデルを発見し、二重の衝撃でした。遠目に真っピンクのクラウンを見ると、一瞬、周囲のクルマがモノクロに見えてしまうほどの強い存在感を放っていました。

 同時に、こんな前代未聞なクルマを生み出す自由が認められているトヨタが好きにもなりました。モータリゼーション黄金期は、四輪・二輪各社とも独自の企画・開発による挑戦的なモデルをバンバン出し続けていました。しかし、市場が成熟すると、念入りな市場調査を行った上での開発が定石となり、結果的に「遊び心を感じる乗りもの」が少なくなったように感じます。

 そんな中で、突如トヨタが打ち出したピンクのクラウン。相応のマーケティングはあったでしょうが、トヨタがポジティブに「面白さ」を追求した一つのカタチのようにも映ります。

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