JR東日本の寝台列車「カシオペア」が引退を迎えます。寝台特急「北斗星」の役割の一部を担う形でデビューし、北海道新幹線と入れ替わる形で一線を退いた列車ですが、後の鉄道に計り知れない影響を与えました。
JR東日本が、2025年6月限りで寝台列車としての「カシオペア」の運行を終了することを明らかにしています。この「カシオペア」はどのような経緯で誕生し、後に続く列車やサービスにどのような影響を残したのでしょうか。
引退を迎える「カシオペア」のE26系客車(画像:写真AC)
「カシオペア」は、1999(平成11)年7月16日から17年ほど、上野~札幌間を結ぶ寝台特急として運行されましたが、この列車に使われていたのがE26系客車です。より快適で魅力ある寝台列車の旅を楽しめるよう、機能の向上を目指して造られた車両でした。
これより一足早く、1988(昭和63)年の青函トンネルの開通と合わせて上野~札幌間で運行を開始した寝台特急が「北斗星」です。
この「北斗星」も、それまでの寝台特急より客室設備やサービスの水準を上げたことが特徴で、個室の種類を増やしたほか、他の寝台特急にも導入されたシャワールームやフリースペースの「ロビーカー」を備えていました。さらに、食堂車へ予約制度を導入し、フランス料理を提供するなどの新しいサービスも実践していました。
しかし、「北斗星」は既存の車両から改造して調達したものばかりで、カーテンで仕切る開放形の寝台車も連結されていたほか、個室車両も含めて乗り心地に難があり、特に発車の際に発生する大きな衝撃が乗り心地を損ねていました。
一方、大阪~札幌間では1989(平成元)年から2015(平成27)年まで、臨時寝台特急「トワイライトエクスプレス」が運行されました。この列車も客室設備やサービスの水準を高めた寝台特急として有名でしたが、「北斗星」と同じく改造車を充当していたこともあり、同じような課題を抱えていたのです。
「カシオペア」のE26系は12両が新規に製造されたほか、改造車として予備の電源車(ディーゼルエンジンを動力として、「カシオペア」の車両に冷房などの電気を供給するための車両)が1両加わりました。
このE26系は、列車内での生活空間の機能を向上させたことが特徴です。
一方、「カシオペア」とやや考えの異なる新型の寝台列車も同時期に登場しています。285系電車「サンライズエクスプレス」です。「カシオペア」が登場する前年の1998(平成10)年、「サンライズ瀬戸」(東京~高松)と「サンライズ出雲」(東京~出雲市)として運行を開始しました。

東京駅で発車を待つ「サンライズ瀬戸」「サンライズ出雲」の285系電車(柴田東吾撮影)
「サンライズ」は同じ区間の寝台特急「瀬戸」「出雲」を置き換える形で設定され、285系が新造されました。従来の客車から電車とすることで効率化を図っています。客室は個室寝台を主体としつつ、座席扱いの「ノビノビ座席」も設定。食堂車は連結せず、トイレやシャワールームは共用とし、フリースペースのラウンジも最小限の設備に留めています。
「カシオペア」とは客室設備の方向性が異なりますが、「カシオペア」が上野から札幌まで17時間近くかけて走っていたのに対し、「サンライズ瀬戸」は9時間、「サンライズ出雲」は12時間です。運行時間の長い「カシオペア」は、「サンライズ」よりも居住性を優先させて旅を楽しめるよう設計されているといえます。
なお、「サンライズ瀬戸」「サンライズ出雲」は、寝台特急「瀬戸」と、2往復あった「出雲」のうち1往復の置き換えが行われました。
一方、「カシオペア」は3往復あった「北斗星」のうち1往復が置き換わっただけで、「カシオペア」と「北斗星」が共存する時代が続きました。「カシオペア」は1編成しかないため、上野発は火・金・日曜、札幌発は月・水・土曜の運転が多く、繁忙期は隔日に運転日が設定されていました。
「カシオペア」は2人用の個室ばかりでしたが、「北斗星」は個室を含めて1人で利用できる設備が多く、利用者の棲み分けができていたのかもしれません。筆者(柴田東吾:鉄道趣味ライター)も、鉄道を利用して首都圏から北海道へ数多くの旅行をしてきましたが、1人旅ゆえに「北斗星」を多く利用していました。
北海道新幹線の工事が進んだことで、「北斗星」は2008(平成20)年3月のダイヤ改正で1往復だけに減り、2015(平成27)年には運行を終了しています。「カシオペア」も2016(平成28)年3月26日限りで臨時寝台特急としての運行を終え、以後はツアー列車として使われてきました。
ツアー列車となった後も2017(平成29)年まで北海道への乗り入れが行われます。青函トンネル付近では北海道新幹線となった線路を走行し、青函トンネルの区間ではEH800形電気機関車、北海道内ではDF200形ディーゼル機関車と、それぞれJR貨物の機関車が牽引(けんいん)を担当したことが特色でした。
「カシオペア」の後継車両「カシオペア」が定期運用を終えツアー列車として使用する一方で、JR東日本はクルーズ列車「TRAIN SUITE(トランスイート)四季島」を2017(平成29)年にデビューさせます。ツアーの内容によっては首都圏から北海道方面への列車として「カシオペア」の後を受ける形で運行されています。
ちなみに、JR西日本では「トワイライトエクスプレス」の車両が2016(平成28)年までツアー列車として同社管内で運行され、翌年に運行を開始したクルーズ列車「TWILIGHT EXPRESS瑞風」に引き継がれています。
「TRAIN SUITE四季島」「TWILIGHT EXPRESS瑞風」とも、「カシオペア」よりも客室設備が高級になり、専属スタッフによるサービスが行われることで、1回の旅行代金は最低でも数十万円となる高額に設定されています。
一方でJR西日本は、気軽に鉄道の旅を楽しめる長距離列車として「WEST EXPRESS (ウエストエクスプレス)銀河を投入し、2020年から同社管内で特急列車として運行を開始しています。期間に応じて運転区間を変えるなど、運行の方法は「TWILIGHT EXPRESS瑞風」に似ていますが、運賃・料金はクルーズ列車よりも廉価に設定され、食堂車をはじめとした供食のサービスはありません。
車両は既存の電車を改造したもので、客室は個室や座席を組み合わせた斬新としたものとした一方で、フリースペースには「明星」や「彗星」といった過去に運転されていた寝台特急の名前が用いられています。
また、JR東日本も2027年に新たな夜行特急列車の運行を始める予定です。これも、既存の特急形車両を改造したもので、全室がグリーン車の個室タイプの座席として設定され、フリースペースのラウンジが設けられる一方、食堂車は設定されない計画です。
「移動を楽しく、快適・便利に」の実現を目指したもので、「TRAIN SUITE四季島」のような贅沢な構造とはならず、「WEST EXPRESS銀河」の東日本版ともいえそうです。外観の色は「WEST EXPRESS銀河」と同じ青系で、かつての寝台特急(ブルートレイン)の青色が継承されています。
「カシオペア」が取り入れた客室設備やサービスを直接受け継いだ車両はありませんが、クルーズ列車の「TRAIN SUITE四季島」が“高級路線の寝台列車”を引き継いでいます。また、「カシオペア」が採用した全個室のスタイルは新たな夜行特急列車にも採用され、手頃な価格設定の列車として引き継がれたといえそうです。