民間旅客機製造市場へ近年本格的に参入し始めた中国ですが、成功へ何がカギになるのでしょうか。また、先を行くエアバスやボーイングなどが持つ経験の差を覆すことが出来るでしょうか。
中国は、エアバス(ヨーロッパ)やボーイング(アメリカ)、そしてエンブラエル(ブラジル)3社の寡占状態となっている、民間旅客機製造市場への参入を狙っています。いわば、世界制覇を虎視眈々と狙っている状態です。先を行く3社との差を覆すことが出来るでしょうか。
シンガポール航空ショーでのC919(相良静造撮影)。
筆者は、その野望が達せられるかは2030年までの今後5年間の進みようがカギになると考えています。
2025年現在、中国のCOMAC(中国商用飛機有限公司)が手掛ける旅客機は、リージョナル機のC909(旧名称ARJ21)と150~200席級のC919が生産中で、さらにC919より大型のC929も設計に入っているといわれています。このうち、C919は短胴型と胴体延長型も追加されて開発に入り、C929とともに 2028年から2030年に登場するとされています。
ただし、C919は国際的な商業運航に欠かせない米連邦航空局(FAA)の型式証明を取得しておらず、欧州機関(EASA)の承認もどのように進むか見えていません。EASAでの承認は不透明で、取得は最短2026年という声もあれば、今後3年から6年かかるとの声もあります。
つまり、今後5年間は中国にとって「開発・拡大ラッシュ」になり、すべてのプロセスがスムーズにいけば、欧州域内への航空会社への販売が可能になり、勢いを駆ってFAAへも型式証明を認めさせることができると踏んでいると考えられます。
そんなうまくいくの?→老舗と中国の違いこうした勢いは、2025年6月に開催された世界最大級の航空関連展示会「パリ航空ショー」において、COMACがブースで見せた機体模型の並びようからも伺えます。並んだ模型の多さではC909が目立ち、C919は製造前の短胴・長胴タイプの派生型も加えることで“ファミリー化”をアピール。
これは長年生産しているC909は販売数の多さを、C919のトピックとしてファミリー化を、今後の注目株であるC929は最も大きく――と変化をつけてそれぞれの実績と将来性を前面に打ち出してアピールしていたのです。
とはいえ、航空機の開発は往々にして技術的課題が山積し、ほとんどが計画通りに進みません。そのうえ、旅客機は外見が同じでも中身は航空会社ごとに装備機器が異なる“オーダーメイド”が一般に行われます。
これまで既存の旅客機メーカーたちはこうした“オーダーメイド”に対して、航空会社の様々な要望に応えるノウハウを蓄積してきました。こうしたメーカーと航空会社の間で醸成される“経験値”においては、C919のライバル機で、かつエアバスで最も売れている「A320」とボーイングの同ポジションのモデル「737」に迫るのは、一朝一夕に実現するとは考えにくいです。
また、C919の航続距離はA320と737より幾分短いため、海外航空会社へのセールス時に、これがウィークポイントにならないとも限りません。航続距離に余裕があれば、同じクラスの機体でも、路線展開に柔軟性が増すからです。
航続距離に影響する燃費を左右するエンジンもC919は現在外国製のCMFインターナショナル「LEAP-X1C」エンジンを搭載していますが、中国はこれに加え、国産エンジンの搭載を視野に入れて開発に取り組んでいます。将来はその中国産エンジンを搭載したC919の販売へむけ、野心を抱いているのは明らかです。
機体・エンジン共に中国製のモデルの展開も含め、中国がこの先の5年間、旅客機市場の開拓にさらに力を入れていくことは間違いありません。