ロシアによるウクライナ侵攻で、注目を集めたアメリカ製兵器HIMARSのそっくりさんがフランスで行われたパリエアショーに新兵器として展示されていました。ただ、これは単なる「二番煎じ」というワケではなさそうです。
フランスの防衛関連企業 テュルジ&ガイヤール(Turgis & Gaillard)社は、2025年6月下旬にパリ郊外のル・ブルジェ空港で開催された「パリ国際航空宇宙ショー(パリエアショー)」において、新型の多連装ロケット砲システム「フードル」を展示しました。
2016年、ポーランドで行われたNATO演習でロケット弾を発射したアメリカ陸軍のHIMARS(画像:アメリカ陸軍)。
その見た目は、アメリカが開発したトラック型の自走多連装ロケットシステム「HIMARS」にそっくりです。HIMARSは、ロシアのウクライナ侵攻でアメリカがウクライナに多数供与し、その機動性と火力の高さから注目を集めています。
こうした戦果を見て、フランスも似たような兵器を作ったのでしょうか。調べてみたら、それ以外の理由も判明しました。
フランス陸軍は従来、陸上自衛隊も購入したアメリカ製の対連装ロケットシステムMLRSをライセンス生産し、「LRU」の名で運用しています。
前出の「フードル」は、このLRUの代替として開発されたもので、名称はフランス語で稲妻という意味を持つ「Foudre」が由来です。
ルノー製の6WD軍用トラックをベースに、可動式の6連装ランチャーを組み合わせています。ランチャー内部には収縮式のクレーンが収納されており、ロケット弾を車両単独で再装填することもできます。
キャビンは装甲化されているため、防弾・耐爆機能だけでなくCBRN(化学・生物・放射性物質・核 )に対しても一定の防護機能を持っています。
なお、軽量なトラック車両をベースにしたため、道路での素早い移動や、舗装されていな悪路でも走行することができます。
こうして見てみると、その特徴はアメリカのHIMARSとほぼ同じであり、そのため「フードル」はフランス版HIMARSといっても過言ではないでしょう。

ルーマニアで実施されたNATO演習に参加したフランス陸軍のMLRS(画像:フランス軍事省)。
そもそもHIMARSは、GPS誘導付きのロケット弾M31 GMLRS-U(射程約90km)や、弾道ミサイルのM57 ATACMS(射程約300km)が発射可能で、前線を越えて敵の内地に縦深打撃が可能な兵器です。前述したように、ウクライナ戦争で、同軍がロシア側に対して行った攻撃で目覚ましい戦果を挙げており、HIMARSの名前は一般報道でも見かけることが多くなりました。とうぜん「フードル」は、HIMARSと弾薬の互換性があります。
となると、フランス軍もMLRSの後継を探しているのならHIMARSをそのまま導入すればよいのではないでしょうか。使用する弾薬も同じで、コンセプトも似通っていのであれば、わざわざ新しい兵器を自主開発するのではなく、実績あるHIMARSをそのまま導入すればいいようも思えます。
しかし、2022年のウクライナ侵攻以降、兵器や弾薬生産のサプライチェーンの能力不足が露呈したことで、各国ともに自国の防衛産業を強化する方向に舵を切っています。
フランスとしては、独自開発した「フードル」であれば、ランチャーシステムの国産化だけでなく、使用する弾薬の国産化にも繋がり、アメリカに頼らない兵器システムを手に入れることが可能です。
コスト的にはデメリットもあるでしょうが、国家安全保障の観点では、決してマイナスではないと考えているようです。
また、メーカーとしては、とうぜん海外輸出も考慮しているようです。
「フードル」は、アメリカからHIMARSの調達が難しい国に対して販路を開拓できるという狙いもあるようです。そのため、仮にフランス本国が正式に採用すれば、同システムは次世代の火力打撃能力を担う装備としてだけでなく、フランス防衛産業の輸出力強化にも大きく貢献する存在になるのは間違いないでしょう。