異なる鉄道事業者の電車が相互に乗り入れる「直通運転」。鉄道事業者の境界となる駅では、そこだけで見ることができる興味深い光景が広がっています。
目黒駅(東京都品川区)は、JR山手線のほか、東急目黒線・東京メトロ南北線・都営三田線が乗り入れています。この目黒線・南北線・三田線の駅は3路線の境界駅ですが、東急が管理しているため、案内のサインなども東急仕様です。
東急が管理する駅に現れた相鉄21000系の都営三田線・高島平行き。都営地下鉄の乗務員がハンドルを握り東京メトロ南北線の線路へ(和田 稔撮影)
駅名標も当然ながら東急のデザインですが、境界駅であるため白金台方面の表示には南北線と三田線のラインカラーと駅ナンバリングが記載されています。目黒線の路線色は水色なので、全体的に爽やかな印象です。
さて、この駅の真骨頂とも言える見どころは、南北線と三田線の関係にあります。
目黒~白金高輪間はそもそも南北線の線路で、この区間を三田線が共用しているという関係です。三田線の電車は、都営地下鉄が第二種鉄道事業者として南北線の線路を借りて運行しています。これは、JR貨物がJR旅客各社の線路を借りて貨物列車を運行しているのと似た仕組みです。
その関係性を象徴するシーンが、白金高輪方面へ向かう2番線の電車で見られます。
目黒線から到着した東急の乗務員は、当駅で下車します。そしてこの先は東京メトロの管轄になるため、南北線の電車には東京メトロの乗務員が乗り込みますが、三田線の電車には都営地下鉄の乗務員が乗り継ぎ、ハンドルを握ります。
同じ線路を走るにもかかわらず、直通先によって引き継ぐ乗務員の事業者が異なるというのは、なかなか珍しい光景です。
ちなみに2023年3月18日に東急・相鉄新横浜線が開業してからは、相鉄の21000系電車も目黒駅に姿を見せるようになりました。例えば、三田線方面の電車が相鉄の車両だった場合、東急が管理する駅に相鉄の車両が現れ、都営地下鉄の乗務員がハンドルを握り、東京メトロ南北線の線路を走っていくという、なかなか情報量の多いシーンが展開されます。
なお、相鉄21000系は三田線にも南北線にも乗り入れているため、反対側の下り1番線では、同じ21000系でも直通元に応じて、降りてくる乗務員の制服が異なるというのも興味深いポイントです。
東京メトロ線に、都営きっぷで乗れる?ところで、目黒駅は東急・東京メトロ・都営地下鉄の境界駅なので、コンコースには各事業者の券売機と運賃表が並んで設置されています。では、共用区間の白金台と白金高輪の2駅はどのような扱いなのでしょうか。
東京メトロの運賃表は、2駅とも当然ながら通常通りの初乗り運賃である180円が表示されています。
一方の都営地下鉄の運賃表も、白金台と白金高輪の2駅が表記されており、運賃も180円としっかり記載されています。東京メトロの線路なのに、都営地下鉄のきっぷでも乗車できるのでしょうか。
答えは「できます」。目黒~白金高輪間に限っては、どちらのきっぷでも乗車できるのです。
ちなみに、東京メトロ千代田線とJR常磐線各駅停車が接続する綾瀬駅とは対照的な運用です。同駅は会社と行先駅によって販売しているきっぷが少し異なるのです。
では、交通系ICカードを使った場合はどうなるのでしょうか。実際にモバイルSuicaで目黒から白金高輪まで乗車したところ、SF利用履歴には東京メトロを表す「地」という記号が記載されていました。東京メトロの線路であることを考えると、これは予想通りといえるでしょう。
1面2線のホーム構造に加え、ほぼ全ての電車が直通運転のため、どちらかと言えば“途中駅”の印象の目黒駅。しかし、そこには境界駅ならではの光景がたくさん潜んでいるのでした。