中国軍機が自衛隊機に異常接近するケースが相次いで起きました。ただ、中国の主張を見ると、今後このような行動が常態化し、緊張がさらに高まる恐れがあります。
防衛省は2025年7月10日、中国軍のJH-7戦闘爆撃機が7月9日と10日、東シナ海の公海上空を飛行中だった航空自衛隊のYS-11EB情報収集機に対し異常接近を行ったと発表。これを受け日本政府は、中国政府に対して再発防止を厳重に申し入れました。
2025年7月9日と翌10日、東シナ海の公海上で中国軍のJH-7戦闘爆撃機に特異な接近を受けた航空自衛隊のYS-11EB情報収集機の同型機(画像:PIXTA)。
このたびの中国軍の行動は、たとえるなら「空での煽り運転」です。日本やアメリカ、台湾、オーストラリア、韓国、フィリピンなどに対して、このような執拗で挑発的な軍事行動がいまや常態化しており、より過激なものへとエスカレートしています。これは国防だけでなく、「空の交通安全」の観点からも、極めて挑発的で危険な行為であることは言うまでもありません。
しかし、相手の狙いと脅威を正しく理解するためには、単に行動自体を単体で見るのではなく、相手の戦略観や主張を把握する必要があります。
日本政府からの申し入れに対し、中国国防省の報道官は7月13日、航空自衛隊機が中国の防空識別圏に頻繁に進入し、偵察活動をした結果だとして、中国軍は「法に基づいた追跡監視」を「正当かつ合理的」に行ったと反論しました。
もちろん、中国による責任転嫁や「逆ギレ」は今に始まったものではありませんし、このような非難合戦は国際政治においてはよくあることです。
ただ注目すべきは、今回、中国側は比較的に淡々と、しかもかなり詳細に触れた声明を出した点でしょう。中国は感情的かつ好戦的な主張をすることが多いのですが、そうした対応でなかったというのは、ある意味で不気味さを感じさせます。
いずれにせよ、中国のインド太平洋地域における戦略や、近年の積極的な活動状況。そして、これらに関する公的な説明を鑑みると、色々と懸念すべき点があります。
中国は領空・領海侵犯やその他の現状変更を行った際、自国の主張や見立てで上書きしようとしたり、または事実無言であると反論したりします。一方で、公海またはその上空での危険および挑発行為を行った際には、現状維持のため、「守り」の行動を取ったと主張することがほとんどです。
今回の件に関しては、後者にあたると捉えることができます。要するに、中国としては自衛隊の防衛態勢や能力を試したり、攻撃したりしたのではなく、国防省の報道官が説明したとおり、防空識別圏における通常の監視措置を取っただけ、ということなのでしょう。
24年前には米軍機と中国軍機で空中接触したこともしかし、中国の「現状維持」に向けた措置は、力による現状変更の行為とは違う形で危険度が高いと言えます。言い換えれば、防空識別圏における監視のような通常措置でも、今回のような危険極まりない行動が「標準手順」になる可能性があるということです。

2001年4月、いわゆる「海南島事件」で中国軍戦闘機と衝突し損傷したアメリカ海軍のEP-3E電子偵察機(画像:ロッキード・マーチン)。
日本と韓国の防空識別圏は、中国が設けているものと重複している部分が多々あることから、互いの警戒監視措置での飛行が相手にとっては侵入になります。このため、中国は今後も自衛隊や韓国軍機に対し、今回と同じような行動を取ってくるのは間違いないでしょう。
たとえ通常の監視飛行であったとしても、危険極まりない方法で飛び回っていることになり、結果、我が国周辺における「グレーゾーン事態」の拡大・多様化と、緊張の「高止まり」につながります。
特に懸念すべきなのは、誤認・判断ミスやコミュニケーションミスなどによる偶発的な衝突ですが、これらは、焦燥的な状況で発生し、エスカレートすることが多いため、制御不能な形で増進した結果、最悪の場合、全面戦争に至ってしまう恐れも孕んでいます。
とうぜん、中国軍や準軍組織(海警局や武装警察)の戦闘能力と作戦能力が向上していることも忘れてはなりません。これは単に中国がより強大な軍事力を背景に行動を取れるようになるというだけでなく、我が国としてもこれらへの抑止と防衛措置が難しくなることを意味します。
中国の態勢と動向に対して、日本は米韓台比豪といった近隣諸国のみならず、イギリスやカナダ、インドなど他国と連携を強化しつつ防衛力の向上を図らなければなりません。ただ、そうしたことと並行して、未然に衝突を防ぐためにも中国と防空識別圏に関するルールの策定を進め、場合によっては空域について調整することも不可欠です。
今から24年前の2001年4月には、南シナ海上空でアメリカ海軍のEP-3E電子偵察機と中国軍のJ-8III戦闘機が空中衝突した「海南島事件」も起きています。そのようなことを起こさないためにも、主張はしつつ一定のルールを作ることが必要でしょう。