商船三井と常石造船グループ企業が、新ビジネスの構築に向けて動き出しました。連携相手は「ロケット打ち上げ」のスタートアップ。
海運大手の商船三井と専業造船・常石造船グループの常石ソリューションズ東京ベイ(旧:三井E&S造船)は2025年7月10日、再使用型ロケット「ASCA(アスカ)」の開発を手掛けるスタートアップ、将来宇宙輸送システム(ISC)とロケットの洋上発射・回収船の事業化に向けた連携協定書を結んだと発表しました。
商船三井・常石ソリューションズ東京ベイ・ISCの会見で(深水千翔撮影)。
3社は連携して「ロケット打ち上げ事業」に乗り出します。2040年代には旅客も乗せられるSSTO(単段式宇宙往還機)「ASCA 3(アスカ・スリー)」の実現を目指すといいます。
「我々が今考えているのは世界でもまだ例が無い、船を起点にロケット打ち上げと回収を行う事業。洋上であれば理想的な方向へロケットを飛ばせることができるため、打ち上げ能力が向上すると考えている」(ISC 畑田康二郎社長)
ISCが計画するSSTO「ASCA 3」は機体全長40.7m、直径8.1mで、全備重量は716トン。旅客の定員は50人程度で、高度約400kmの地球周回軌道上に最大10トンの物資を投入できるペイロード能力を想定しています。
「再利用」をコンセプトとしている通り、設計目標として1000回以上繰り返して飛行できるだけの耐久性を持たせることを目標としています。
用途としては宇宙空間まで上昇した機体から地球を眺める宇宙旅行や、宇宙ホテルへのアクセス、さらに地球上どこへでも1時間程度で移動できる二地点間高速輸送(P2P)での利用が考えられています。
「宇宙事業は地球規模で行われるインフラ事業だと思っている」と商船三井ウェルビーイングライフ事業本部の安藤美和子副本部長は話します。
「私たちは今まで海で事業を展開して成長してきた会社だ。
ISCは機体の開発だけでなく、高頻度でロケットを打ち上げ、着陸させることができる「スペースポート」の整備についても検討を進めています。これが“船”、すなわち洋上の拠点であり、商船三井と常石ソリューションズが主に関わる部分です。

洋上のロケット発射・回収はアメリカではスペースXが知見を重ねている(画像:スペースX)。
日本では陸上にロケットの発射拠点を設置できる場所が限られる上、立ち入り禁止区域を広く設定する必要があるなど、多くの面で制約があります。
「洋上であれば、さまざまな制約から解き放たれ、高頻度にロケットを打ち上げることが可能なのではないかということが、洋上発射・洋上回収船の出発点だ。当然、船側の研究開発が必要になるため、船社や造船所と一緒に検討していくことになった」(畑田社長)
構想では地上で組み立て・整備したロケットを船に積み込んで洋上の射点へ移動。そのまま推薬を充填し、発射を行います。使用したロケットの着陸と回収も専用の船が行い、機体を陸に戻して壊れた部分があるか点検した後は、再び宇宙へ上げるために船へと乗せるというサイクルになっています。
常石ソリューションズ東京ベイの関 広史CTO(技術統括責任者)は「当社は海事産業の課題解決というものを軸に事業展開を行っていきたい。設計のエンジニアリングだけではなく、例えば液化ガス関連の技術や定点保持システム(DPS)など提供しているが、こういったものが、ロケットの洋上発射・洋上回収船の開発で我々の技術として生かせると考えている」と話しています。
「アスカ1.0」から「アスカ3」へ段階的に整備ISCは2025年内に、初期フェーズとなる技術実証機「ASCA 1.0」の垂直離着陸試験を米ニューメキシコ州で行う予定。これに続いて2028年を目標に、人工衛星の打ち上げが可能な「ASCA 1.2」、そして2032年に安全な有人宇宙輸送を行える「ASCA 2」を実現するとしています。
商船三井や常石ソリューションズとの連携協定ではまず「ASCA 1.0」に適用した洋上発射・回収船の検討を進めていきます。
商船三井の安藤美和子副本部長は、「港でのロケットの積み下ろしや、発射・回収船を目的地へ持っていくための曳航事業、あるいは打ち上げ場所の検討ができる海事のコンサルティングなど、さまざまな分野のグループ会社が傘下にある。こうした当社グループの強みを結集させることは大きな強みであり、今後の成長に生かしていきたい」と意気込みました。