大分空港と大分市街を結ぶ「ホーバークラフト」が16年ぶりの復活を果たします。珍しい乗りものとはいえ、いちど廃止された交通手段。

その”競争力“はどれほどでしょうか。

日本唯一の「ホーバークラフト空港アクセス」復活

 大分市街と大分空港を海路で結ぶ「ホーバークラフト」(大分第一ホーバードライブ)が2025年7月26日(土)に運航を開始。16年前に廃止された航路の“復活”となりますが、どれほど競争力のある選択肢となるのでしょうか。

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イギリスのグリフォン・ホーバーワーク・リミテッド製ホーバークラフトが、合計3隻就航する。定員は80名(植村祐介撮影)

 日本に97ある空港の公共交通機関でのアクセスは、バスが主役となっているところがほとんどです。一般的な鉄道や地下鉄が乗り入れるのは新千歳空港、成田空港など7空港、モノレールおよび新交通システムが羽田空港、伊丹空港(大阪国際空港)、神戸空港、那覇空港の4空港です。そうしたなか、バスでも鉄道でもない交通手段が大分空港に復活します。

 ホーバークラフトとは、エンジンの力で上方から取り込んだ空気を船体下部に吹き付け、その作用で浮上する仕組みを持つ船舶のことです。水の抵抗を直接受けないため、通常の船舶よりも高速で航行できるほか、平坦な場所であれば陸上でも移動が可能という特徴があります。

 大分空港は、大分市街から別府湾を挟んだ反対側の国東半島東岸に位置し、高速道路経由で大分市街まで約60km、別府駅まで約50km離れています。とくに大分市街までは、高速道路が湾曲した別府湾からさらに山側に大きく迂回しているため、高速バスでも所要時間は約1時間かかるなど、アクセスには恵まれていません。

 しかしホーバークラフトは、その別府湾の洋上を最高速度80km/hでショートカットし、空港から大分市街に近い「西大分ターミナル」とを結びます。

所要時間は35分、1日4往復の運航が予定されています。

 かつて高速道路が未整備だった大分空港では、1971年の開港時から旧「大分ホーバーフェリー」が運航するホーバークラフトが、大分市街との主要なアクセスルートとなっていました。しかし高速道路の整備が進んだことなどでホーバークラフトの利用は徐々に低迷、同社は2009年に民事再生手続きを行い、運航にも終止符が打たれていました。

 今回のホーバークラフトの復活は、2020年に大分県が打ち出した「上下分離方式」による航路開設からの流れを受けたもので、ホーバークラフト本体は大分県が保有し、大分第一ホーバードライブは運航を担当する委託事業者という位置付けとなります。

発着場は水面ではない! 不思議な感覚

 大分第一ホーバードライブは当初予定では2024年3月末までの定期就航を目指していましたが、訓練中の事故を重視しての安全対策、さらに船内へのトイレ設置の是非といった課題により、予定より1年以上遅れての運航開始となっています。

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大分空港からのバスは、大分市、別府市方面に、急行タイプからノンストップまで4系統が頻発する(植村祐介撮影)

 このホーバークラフトの大分空港側の発着場は、大分空港ターミナルの南側、到着ロビーから歩いて2、3分ほどの場所に新たに整備されました。乗船口はホーバークラフトの特徴を活かし陸上に設けられ、船体はそこから約650mの舗装されたランプウェイを”走り”、海へと進入します。

 大分市街地側の発着場は西大分港内の一角で、ターミナル施設のほか、利用者向けの立体駐車場やバス乗り場も併設されています。

利便性も運賃も「バスに軍配」

 このように行政も相当な投資をして復活するホーバークラフトですが、既存のアクセスルートと比べての競争力では、その分の悪さは否めません。その理由は所要時間と便数、そして料金です。

 大分空港から西大分ターミナルまでのホーバークラフトの所要時間は35分ですが、そこから大分市街地中心部まではタクシーで10分ほどかかります。そのため空港から大分市街中心部への移動では、約60分のバスと大きな差はなくなります。

さらに便数を比べると、飛行機のダイヤに合わせ設定され、待たずに乗れるバスが圧倒的に有利です。

 ホーバークラフトの運賃はアプリ決済で2000円、現地決済で2500円(いずれも片道)となっています。ちなみに2009年のホーバーフェリー廃止時点の運賃は、各種割引もありましたが、通常では片道2980円でした。

 他方、バスの運賃は大分空港から大分市街まで片道1600円です。ホーバークラフトの運賃は前述のように安くても2000円で、これにタクシー代を加えると、大分市街地までは「バスと同じくらいの所要時間で、料金は大幅に高い」ということになります。

 そのため、ホーバークラフトがバスで空港と大分市街を行き来する利用客を奪うことはちょっと考えづらい状況です。

マイカー利用者にはイイ…か?

 一方、大分空港までクルマを利用している地元客への訴求についてはどうでしょうか。

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国東半島東海岸の埋立地にある大分空港。地元客のアクセスはクルマが主役、ターミナル正面の第1駐車場は満車になることも多い(植村祐介撮影)

 大分市街から大分空港を目指す場合、東九州道大分ICから日出バイパス日出ICまで、通行料金は片道1160円(普通車ETC通常料金)です。また、大分空港の駐車場の利用料金は24時間で最大500円です。このほか大分空港周辺には、これよりも安い民間駐車場が数多くあります。

 ホーバークラフト利用者の西大分ターミナルの駐車料金は無料となっているため、単身でクルマを使い大分空港を目指す人にとっては、ガソリン代や駐車場代を含めると、一定の利用価値はありそうです。

 しかし2人、3人での利用となると、空港の駐車料金が高額になる長期旅行を例外とすれば、圧倒的にクルマのほうが安く、ホーバークラフトはちょっと太刀打ちできそうにありません。

 そしてやはりここでも「1日片道4便」という便数の少なさがネックになります。飛行機に間に合う時間に空港に着けばいいというクルマの自由度と比べると、ホーバークラフトは選ばれづらいと考えるのが一般的ではないでしょうか。

 ただ、大分空港までのアクセスルートが多様化し、利用者にとって選択肢が増えるのはメリットです。たとえば大分空港から大分市街までの往路は”アトラクション”的な移動手段としてホーバークラフトを楽しみ、帰路は利用が便利な大分駅前からのバスを選ぶという旅もありうるでしょう。

 また、大分第一ホーバードライブは2024年7月の段階で、便数を「7往復半15便」、夜間運航認可後は「12往復24便」とする案を発表しています。

 せっかく復活したホーバークラフトですから、今後の利用者増、それにともなう便数増や運賃値下げが実現することを、ぜひ期待したいと思います。

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