ウクライナの無人艇が、ロシア戦闘機をミサイルで撃墜しました。これは従来の無人艇が対艦攻撃程度しか使えなかったのが、対空兵器としても使えるまでに進化したということ。

ただ、その脅威は日本にとっても他人事ではないようです。

無人艇が戦闘機を屠った!

 2025年5月2日、ウクライナ国防省は黒海上空においてロシア空軍の多用途戦闘機Su-30SMを連続して2機撃墜したという発表を行いました。

ミサイル担いだ無人ボート「ロシアが誇る万能戦闘機」を相次ぎ撃...の画像はこちら >>

ロシア軍のSu-30戦闘機(画像:ロステック)。

 ただ、驚くべきは戦果を挙げたのが、海上を航行するUSV(無人艇)だったという点です。空軍のF-16戦闘機でも「パトリオット」地対空ミサイルでもなく、USVの「マグラV7」が、搭載するAIM-9「サイドワインダー」短射程対空ミサイルで迎撃したとのこと。これはUSVによって戦闘機が撃墜された史上初の例であり、しかも連続的に発生したという点で、重大な出来事であると言えるでしょう。

 戦闘機は本来、高度と速度という2つの軸で戦場の空を支配する存在であり、航空優勢(制空権)の確保や爆撃任務の主体となる、なくてはならない兵器です。しかし現代の戦場、とりわけウクライナの空では、すでにこの前提が崩壊しています。

 ウクライナとロシアの双方が配備する長射程地対空ミサイル、たとえばロシア製のS-300やS-400、そしてアメリカ製の「パトリオット」はウクライナ上空のほぼ全域をカバーし、正確に撃墜する能力を備えています。したがって、戦闘機はこれら地対空ミサイルシステムの探知圏外でしか活動できなくなっており、超低空飛行を余儀なくされています。

 しかし、低空には別の危機が待ち構えます。それは、携帯型地対空ミサイル(MANPADS)や短距離地対空ミサイルなどといった比較的安価かつ小型な対空兵器群です。

これらが網を張っているため、戦闘機の活動可能な空間は著しく狭まっており、まさに「逃げ場のない空」がウクライナ上空を覆っている、そんな状況です。

 そうしたなか、戦闘機が活動できる数少ない領域であったのが海の上です。しかし、今回の撃墜事件で、海上でさえも戦闘機の低空侵攻能力が部分的に否定されたと言えるでしょう。

日本近海でも起きるか?

 かつて航空機は水上艦を一方的に攻撃できる能力を有していましたが、艦対空ミサイルの普及により現代では圧倒的に水上艦の方が強力であり、そのため海上においても地上同様に航空機側は超低空飛行から長射程の空対艦ミサイルを使用して攻撃するという戦い方が主流となっていました。

ミサイル担いだ無人ボート「ロシアが誇る万能戦闘機」を相次ぎ撃墜! 日本にとっても脅威なワケ もはや戦闘機の逃げ場はないのか?
Large figure2 gallery5

ウクライナ国防相により公開されたサイドワインダーミサイルを2発搭載したマグラV7無人艇(USV)。黒海においてSu-30を立て続けに撃墜した(画像:ウクライナ国防省)。

 AIM-9の射程はせいぜい10km以下ですが、「マグラV7」のようなUSVは通常の水上艦よりもずっと安価なので大量展開が可能であり、例えば10隻を10km間隔で配置すれば、100kmに及ぶ防空の壁を低空域に構築することが理論上は可能になります。

 この技術的な変化は、ウクライナ・黒海だけの問題ではありません。東アジアの海空域、とりわけ台湾海峡や南シナ海、東シナ海といった日本の周辺海域においても、今後の航空戦環境を一変させる可能性を孕んでいます。

 広い海上においては水上艦を攻撃するにも、潜水艦を探知し攻撃するのにも航空機の運用が欠かせません。しかし対空能力を持ったUSVによってその運用が著しく阻害されてしまうことが考えられます。

 中国海軍はすでに数百隻のUSV開発に注力しており、仮にAIM-9に準じた赤外線追尾型の撃ち放しミサイルを搭載し、海上に無数にばら撒いた場合、台湾や日本周辺の空域においてもウクライナと同様、戦闘機の超低空飛行に大きな制限がかかるでしょう。

これに対抗するためには海上自衛隊にも同種のUSVを大量に配備し、同様に相手の航空活動を制限させる必要があると考えられます。

 対空ミサイル搭載型USVは「マグラV7」が戦果をあげる以前から存在しており、例えばウクライナでは「サイドワインダー」とほぼ同等の性能を持つロシア製R-73空対空ミサイルを搭載した「シードラゴン」が存在しました。同艇は、2024年12月にMi-8輸送ヘリコプターを撃墜した事例があります。

 こうしたことを鑑みると、「マグラV7」のような対空ミサイルを搭載したUSVが今後、世界中で急速に拡散することは、ほぼ間違いないといえるでしょう。

編集部おすすめ