「首都圏から一番近い離島」とも言われる静岡県の初島に、既存船を大幅改装した異色の高速船が新規就航しました。
東京から日帰りも可能な離島に「新高速船」静岡県の熱海~初島航路に、2025年7月12日から富士急マリンリゾートの新高速船「金波銀波(きんぱぎんぱ)」が就航しました。
今月から静岡県の熱海~初島航路に就航した新高速船「金波銀波(きんぱぎんぱ)」(乗りものニュース編集部撮影)
初島は、熱海市の沖合約10kmに浮かぶ島。「首都圏から一番近い離島」とも言われ、東京から日帰りで訪れることも可能です。富士急グループは、1964年7月にリゾート施設「初島バケーションランド」(現在のPICA初島)を開業し、これを契機に島内の開発が進みました。
島への交通手段となる熱海~初島航路の所要時間は約30分ほど。2025年7月時点で10往復が運行されており、往復乗船料は大人2900円・小学生1450円です。「金波銀波」の就航に合わせて、同航路は「初島リゾートライン」に名称が刷新されました。
「金波銀波」は、1993年就航の既存船「イルドバカンス三世号」を大幅に改装した船となります。改装では主に塗装や内装、座席などが刷新されました。
デザインを担当した川西康之さんはこれまで、JR西日本グループの高速船「SEA SPICA」や273系電車の特急「やくも」、2024年2月に箱根・芦ノ湖で就航した富士急グループの「箱根遊船 SORAKAZE」などを手がけてきました。30年以上も活躍してきたベテラン船が「川西デザイン」で生まれ変わったのです。
船の全長は44m、全幅8.2m、総トン数292トン、定員約630人と比較的小型ですが、多客期には座席に座れない乗客も出るほど混雑するといいます。
なお、船内は船底の地階から3階までの4層構造となっています。外装は「初島の岩石」にちなんだ黒色を基調としつつ、熱海が発祥地と言われている国産レモンの黄色がアクセントとして入り、目を引きます。
富士急行は「金波銀波」就航日の前日となる、2025年7月11日(金)に報道公開を実施。報道公開にはデザインを手がけた川西さんも参加し、改装のポイントを船内で説明しました。
「不人気座席」も“川西デザイン”で生まれ変わる川西さんは「このプロジェクトは、熱海と初島の約30分の旅を生まれ変わらせようというところから始まりました。デザインは良い部分を伸ばし、課題を解決することに尽きます」と話します。関係者と共に初島航路に1日何往復も乗船して利用者の様子を観察したり、直接ヒアリングを実施したそうです。

改装前には海が見えない「不人気席」となっていた1階中央の座席は、床を上げた半ボックス席にすることで海が見えるようになり、子連れでの利用にも対応できるスペースに生まれ変わった(乗りものニュース編集部撮影)
改装前の船内は、1階窓側が4人掛け、中央が3人掛けで、地階はカーペット席だったそう。観光客が多い航路のため、従来は窓側から埋まっていき、中央の座席は人気がない状態だったといいます。夏の多客期には、座りたい乗客が炎天下の中、乗船口で長時間並ぶ事象も発生し、課題となっていたそうです。
また、熱海発の便は海を見たがる乗客が多い一方で、初島発の便はスマートフォンを見たり寝ている乗客が多く、「行きと帰りで乗客の過ごし方が全く違う」ことが初島航路の特徴だと指摘します。
川西さんは乗客の傾向や課題を踏まえ、「改装では船内の居場所の選択を増やし、様々な過ごし方を提供できるようにしました」と話します。
船内には新たに売店が設置され、地元産のレモンビールやコーヒー、菓子などを購入できるようになりました。ほぼ全席にテーブルも設けられたので、売店で購入した飲食物を自席で楽しむ、といった過ごし方も可能に。不人気だった1階中央の座席は、床を上げた半ボックス席にすることで海が見えるようになり、家族連れでの利用にも対応できるスペースに生まれ変わりました。
1階前方には特別室「金富士」が設置され、片道4000円の料金(貸切で8人まで利用可能)を払えば必ず座ることができる選択肢ができたのも利用者にとっては嬉しいポイント。地階にはUSBを確保したカウンター席がズラリと並びます。2階の遊歩デッキは、竹馬風ベンチがある公園のような空間です。3階デッキには人工芝生の広場まであり、ニーズに合わせて思い思いの時間を過ごすことができる仕掛けが満載となっています。
船内をあちこち散策している間に、所要時間の30分があっという間に過ぎてしまうような「新船」に生まれ変わっています。