2025年7月上旬、東シナ海上空で航空自衛隊の電子偵察機に異常接近してきたのは、中国オリジナルの戦闘爆撃機でした。しかも、その任務や役割、外観が日本のF-1支援戦闘機とよく似ているのです。
2025年7月10日、防衛省は1件の航空機異常接近事案を公表しました。それによれば、前日9日および10日に東シナ海の公海上空を飛行中であった航空自衛隊の電子情報収集機YS-11EBに対し、中国人民解放軍所属とみられる戦闘機が異常なまでに接近したと言います。
防衛省が公表したYS-11EBに異常接近したJH-7戦闘爆撃機。空中戦よりも空対地・対艦攻撃能力を重視した機体である(防衛省・統合幕僚監部の画像に編集部で矢印を追加)。
この出来事は、わずか1か月前の6月7日および8日に発生した、海上自衛隊のP-3C哨戒機に対する中国軍戦闘機の異常接近に続くものであり、短期間に類似の事案が連続して発生したことに、日本政府は強い懸念を表明。外交ルートを通じて中国側に対し厳重な再発防止の申し入れを行いました。
今回の接近行動では、YS-11EBに対して水平距離およそ30m、垂直距離約60mという極めて危険な距離まで中国機が接近したとされ、防衛省が公開した写真には、これまでほとんど確認されていなかった「異質な機影」がはっきりと写っていました。
双発、肩翼配置で直線的な主翼、細身の胴体線、それは、まさしく中国が独自に開発した戦闘爆撃機JH-7(中国名:殲轟-7)です。
JH-7は、中国の航空戦力においては決して多数派とはいえない機体です。これまで東シナ海における自衛隊機の緊急発進(スクランブル)対象となってきた中国機の多く、または逆に自衛隊機を中国軍のスクランブル対象機として発進した戦闘機は、ロシア由来のSu-27系列、すなわちJ-11といった制空戦闘機で占められており、これらはいずれも高機動性能を備えた第4世代戦闘機として、中国沿岸における防空の主柱を担ってきました。
それに対しJH-7は、まったく異なる思想に基づく機体です。1990年代初頭に実戦配備が開始されたこの機体は、対艦攻撃を主任務とする「戦闘爆撃機」であり、空中でのドッグファイトではなく対艦・対地攻撃力に特化しています。
JH-7の運用において重視されているのは、敵レーダー網の死角となる超低空進入能力と、各種空対艦ミサイルや対地巡航ミサイル、誘導爆弾の搭載・運用能力です。したがって戦闘機というよりは、むしろ海上自衛隊やアメリカ海軍の艦艇群に対する「槍」、すなわち打撃力としての役割が期待されています。

中国海軍のJ-15艦上戦闘機。Su-27系列のJ-11戦闘機の最新の派生型である(画像:AVIC)。
その外観や任務特性は、かつて航空自衛隊が運用していたF-1支援戦闘機を想起させます。F-1もまた国産開発の対艦・対地任務を重視した戦闘爆撃機でしたが、JH-7はそれを一回り大きくスケールアップさせたような印象のジェット機です。ゆえに、機体規模・航続距離・兵装搭載量のいずれをとってもJH-7はF-1を凌駕しており、その意味では「F-1の延長線上にある上位互換機」と見なすこともできるでしょう。
しかし、そうした機体の性格だからか、これまでJH-7が東シナ海に姿を現すことはほぼありませんでした。だからか、自衛隊機により接近写真として記録された事例は筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)が把握している限りなく、防衛省が公開した中国軍機の識別写真にJH-7が登場したのは今回が初めてです。その意味でも極めて注目すべき事象だと言えるでしょう。
ではなぜ、戦闘爆撃機という性格を持つJH-7が、電子情報収集任務に従事していたYS-11EBに接近するという動きに出たのか。現時点では明確な意図は不明ですが、少なくともJH-7が中国の防空において一翼を担っていることは確実であると言えます。