走ってくる電車の前照灯でも、車窓でもない「足回り」から光線を放っている車両が出現しています。照らしているのには、確固たる理由がありました。
東武鉄道の野田線(東武アーバンパークライン)の新鎌ケ谷駅(千葉県鎌ケ谷市)で夕暮れに、筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)が片方の対面式プラットホームで反対側の電車を撮影していた時でした。筆者のターゲットは、引退が進む古参車両の8000型でした。そこへ新型車両の80000系が入線したので、“試し撮り”の感覚でカメラを向けました。
東武鉄道野田線の80000系の「みまモニ」搭載した編成(大塚圭一郎撮影)
すると、見た目は普通の普通電車にもかかわらず、足回り部分から白色と赤色の見慣れない光線が放たれているのに気づいて目を奪われました。
アルミ合金製車体の80000系は、2025年3月に営業運転を開始。近畿車両が計25編成を製造して8000型と10030型を置き換える計画で、話題を呼んだのは野田線の標準だった6両編成から5両編成へ「減車」したことです。
東武によると、野田線の2024年度の1日平均乗降人員は94万6946人と、新型コロナウイルス禍前の19年度(96万1596人)より1.5%減りました。利用者が将来も減っていくことが想定される中で、東武は「持続性の観点」から1両減車することを決めました。
既存車両の60000系も現行の1編成当たり6両から5両へ減らし、取り出した1両は80000系に組み込みます。このため、80000系のうち18編成は1編成当たり4両だけを新造し、残る1両は60000系の車両を流用することになります。
人口減少の影響が首都圏にも波及してきたことを象徴する減車が話題を読んだ一方、最初の編成には採用されなかったため、あまり光が当たらなかった機能があります。そのひとつが、前出した営業運転中の電車の足回り部分から光を当てていた機能です。
この機能の正体を知らせるロゴが、光が出ている3両目の車両車端部の側面に貼られていました。
実は「線路のお医者さん」ロゴは虫眼鏡のイラストの中に電車と駅、線路、架線、信号を描いており、電車が通信している様子も表現しています。円の外周部には「東武鉄道検測列車」を意味する英語の「TOBU RAILWAY Monitoring Train」と記され、「みまモニ」と名付けられた愛称も記載されています。

東武鉄道野田線80000系の3両目の側面にある「みまモニ」のロゴ(大塚圭一郎撮影)
この車両は、線路や架線などの状態を確かめることができることによる「見守り」と、線路や架線などを検測する「モニタリング装置」を組み合わせ、「みまモニ」と命名されました。営業車両に検測機能を組み込み、通常の運転中に線路や架線の状態を確かめて伝えることにより、鉄道設備の検査業務を効率化できるのが持ち味です。
いわば、“線路のお医者さん”である東海道・山陽新幹線の検測専用車「ドクターイエロー」のような機能を、中間車1両に詰め込んでいるというわけです。
側面にロゴを記した3両目の車端部が機器スペースになっており、足回りから出ている白い光と、赤色のレーザーが線路の状態を確認しています。また、同じ車両の屋根には8台のカメラを備えており、架線の状態をチェックしています。
80000系のうち「みまモニ」を設けるのは第4、5編成の2編成だけ。他の編成の新造3両目には機器スペースがなく、窓を取り付けた乗客用の空間となっているため1両分の定員は2人多い144人です。
車内に入ると、機器スペースの壁面には通風口が付いており、一見すると大型エアコン装置のように見えました。車両諸元によると、「みまモニ」が付いている車両の空車重量は検測装置搭載時に30t、非搭載時に27.8t。
同じように営業車両へ機器を取り付けることで検査業務を効率化した先例には、JR九州が通勤用電車811系の一部を改造して2020年4月に実用化した検測装置搭載編成「RED EYE(レッドアイ)」があります。4両編成の811系電車2編成が「RED EYE」となり、鹿児島本線門司港(北九州市)~八代(熊本県八代市)間などで検査に使われるようになりました。

JR九州の811系「RED EYE」。屋根上のライトが光っている(大塚圭一郎撮影)
2編成とも備えている「列車巡視支援システム」は、先頭部に搭載したカメラで撮影するなどしてデータを送ることができ、線路内の支障物の有無や、保守の必要性などを効率的に判断できるようにしました。
これによって工務系の社員が乗務員室に添乗し、目視で確認する手間が省けるようになりました。また、走行中の車両から撮影する効率化により、JR九州は「点検できる頻度が高まり、品質向上を図ることができた」と説明しています。
また、「RED EYE」のうち1編成には「電車線路モニタリング装置」も装備。屋根上に4K対応のカメラを8台載せ、架線や、電気を供給する設備を走行中に撮影した動画データを作業員が事務所で確認して検査できるようにしました。JR九州は作業員が線路沿いを歩いて目視検査をする従来の方法より省力化できたと説明しており、夏の猛暑などに屋外で検査をする作業員の負担が軽減されたのは長足の進歩と言えます。
811系「RED EYE」を手っ取り早く見分ける方法は、先頭部を確認することです。正面から見た右側に赤文字で「RED EYE」と明記されています。
また、「RED EYE」の導入は、座席を転換式クロスシートからロングシートへ交換するなどのリニューアル工事と合わせて実施されました。一般的なリニューアル編成は先頭部の貫通扉に通勤列車の英語「COMMUTER TRAIN」の頭文字を取った「CT」が青地に白文字で書かれているのに対し、「RED EYE」は「CT」を赤地に白文字で記しています。
筆者が2020年に目撃したのは電車線路モニタリング装置を搭載した編成で、屋根上のカメラで撮影しやすいように架線などをライトで照らしていました。
一方、同じJR九州でもややこしいのは2023年にお目見えした「BIG EYE(ビッグアイ)」は検測車で、営業運転には使われていないということです。輪をかけてややこしいのは、もともとは営業車両として使われていたという点。旅客用のディーゼル車両キハ220形が20年7月豪雨で被災し、改修して検測車に生まれ変わりました。もっとも、列車の安全運行が守られるように鉄道設備をしっかりと監視する「EYE(目)」の役割を果たしており、縁の下を支える力持ちとして活躍ぶりが注目されているのはどちらも同じです。