今から約半世紀前の「大阪万博」では、なんと「電気自動車」が場内の業務で活躍していました。このクルマは当時としては“斬新すぎる”デザインも話題となったのですが、どのようなモデルだったのでしょうか。

「どっちが前なの?」衝撃的だった「キャリイバン」電気自動車

 2025年10月13日まで開催予定の「EXPO2025 大阪・関西万博」が話題となっています。最先端テクノロジーや、さまざまな国の文化に触れられる老若男女が楽しめる大イベントですが、今から55年前の1970年に開かれた「日本万国博覧会(呼称:『大阪万博』)」も、企画や展示のレベルの高さでは2025年の万博に負けていません。

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1970年の大阪万博で話題となった電気自動車のスズキ「キャリイバン(L40V)」(松田義人撮影)

 当時の万博は「動く歩道」「リニアモーターカー」「携帯電話」「テレビ電話」など、最先端技術の数々に注目が集まりましたが、“乗り物”の分野でも、非常に興味深い企画が展開されていました。1970年の時点では、まだまだ先の“未来のクルマ”であった「電気自動車」が会場内を走行していたのです。

 そのクルマが、スズキ「キャリイバン(L40V型)」をベースに作られた電気自動車です。

 スズキ「キャリイ」は、1961年に初代モデルが発売された軽商用車。2025年現在までに11世代、64年にわたって支持されているロングセラーモデルですが、電気自動車のベースとなったのは、1969年に登場した4代目「L40型」シリーズの5ドアバンモデルです。

 この世代のキャリイバンの特徴は、何といっても斬新なエクステリアデザインです。リアゲートがフロントウィンドウ並みにきつく傾斜しており、車体を真横から見ると「どっちが前で、どっちが後ろか」と混乱しそうなフォルムになっていました。

 このデザインは、イタリアの巨匠であるジョルジェット・ジウジアーロ氏の原案を基に、スズキ社内でアレンジしてまとめたものです。

 そして1970年、スズキは湯浅電池(現ジーエス・ユアサコーポレーション)と共同で、このキャリイバンをベースに電気自動車を開発し、「大阪万博」の業務用車両として10台を寄贈しました。この“EVキャリイバン”は、管理施設のパトロールなどで場内を実際に走行し、来場者からは大いに注目されました。

今や当たり前に? “前後対称”な自動運転EVが令和の「万博」に見参

 このモデルで気になるのが、電気自動車としてのパッケージングです。当時のバッテリーは現代に比べて大きく重いものでしたが、EVキャリイバンは、バッテリーをリアラゲッジルームの床下へ吊り下げるようにレイアウト。モーターもフロア下面にセットすることで、ラゲッジスペースを犠牲にすることなく、駆動システムを搭載することに成功していました。

どっちが前で後ろなの!? いいえ前から後ろから… 55年前の万博で未来を先取りしすぎていた“スズキ”
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ナビヤ社の自動運転車アルマ。今回の「大阪・関西万博」でも走行している(乗りものニュース編集部撮影)

 もちろん、EVキャリイバンは市販化されなかったものの、万博の会場内という限定的な環境であれば、充分実用に耐えうる性能を有していました。元のキャリイバン譲りの個性的なデザインも相まって話題となり、スズキの先進性を大きくアピールすることにも貢献しました。

 ちなみに、今回の「大阪・関西万博」においても、かつてのEVキャリイバンのように何種類かの電気自動車が会場の内外を走行しています。その中で自動運転車として走行するフランスのナビヤ社が作った「アルマ」も、EVキャリィバンのように前後でシンメトリー的なデザインとなっており「どっちが前で、どっちが後ろか」という概念がありません。

 同様に、2020年東京オリンピックの選手村で使われたトヨタの自動運転車両「e-パレット」なども前後対象のデザインです。自動運転車両では「どっちが前で、どっちが後ろか」は重要ではなくなってきているのかもしれません。

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