商船三井グループの新たなミュージアム「ふねしる」が大阪南港にオープン。巨大なフェリーが接岸するターミナルの真横に設けられた「海運に特化した博物館」です。
商船三井さんふらわあのフェリーターミナルがある大阪南港のアジア太平洋トレードセンター(ATC)内に2025年7月、商船三井ミュージアム「ふねしる」がオープンしました。上田和季館長が、船に関することの中でもとりわけ「海運に特化した博物館」と話す新ミュージアムは、どのような施設なのでしょうか。
ふねしるの目玉、全周LEDスクリーンによる操船シミュレーターの様子。本物の視界さながらで操船を体験できる(深水千翔撮影)
「ふねしる」は有料の展示コーナーと、無料で入ることができるカフェ・ショップで構成されています。
無料エリアで扱う商船三井オリジナルグッズにも力を入れており、例えば木材チップ船のティッシュケースは唯一無二の存在です。キーホルダーは自動車船、タンカー、LNG船、ウインドチャレンジャー搭載船と各種そろっているほか、前身である大阪商船グッズもあるなど、グッズから商船三井グループの多彩な側面を知ることができます。
有料の展示コーナーは「海運を知る」「仕事をする」「商船三井グループを知る」の3つのゾーンに分かれており、操船シミュレーターのような体験コンテンツも備えた子どもから大人まで楽しめる施設です。
入口を入るとすぐ、縦4m、横30mの巨大なパノラマシアターが出迎えます。「海運を知る」ゾーンではさまざまな種類の船の模型が置かれており、プロジェクターによる投影でそれぞれの船が持つ役割や仕組みを学べます。
模型のスケールは300分の1で統一されており、LNG(液化天然ガス)燃料フェリー「さんふらわあ くれない」やクルーズ船「三井オーシャンフジ」、ウインドチャレンジャー搭載バルカー「松風丸」など、いずれも商船三井グループの新たな取り組みを象徴するような新鋭船となっています。
「ふねしる」が船のミュージアムとして画期的な点の一つとして、すぐそばに巨大な太陽のマークを描いた「さんふらわあ」のフェリーが接岸していることがあげられるでしょう。
ただ、その「さんふらわあ くれない」は、模型の船のなかでは比較的小さいことが分かります。「あんなに大きなフェリーを毎日動していることがすごい、と私も最初は思っていましたが、世界で活躍する船はもっと大型化しているのです。そのことを知ってもらえれば」と上田館長は話します。
世界初「ガチの操船シミュレーター」「ふねしる」の目玉は、世界初となる全周LEDスクリーンを使用した本格的な操船シミュレーターです。

ふねしるの真横で「さんふらわあ」のフェリーが接岸している(深水千翔撮影)
これは、商船三井が訓練で使用しているシミュレーターとほぼ同じプログラムが使われており、大阪湾を舞台に小型ボートからフェリー、コンテナ船まで様々な船の操船を体験することができます。天候や時間帯も変更でき、あえて難易度を高い想定を選ぶことで、大型船の操船の難しさをリアルに感じられるようになっています。
もうひとつ興味深いのは、機関部の展示があることです。2ストロークエンジンの仕組みを稼働する模型で学べるようになっているうえ、機関制御室のコンソールも置かれており、緊急時のトラブルシューティングの体験をすることができます。ふだんあまり知られない機関士の仕事も学べます。
「海運によって今の生活がある」に重点7月19日の開館式に出席した商船三井ウェルビーイングライフ事業本部長の向井恒道常務は「ここは私どもが運航している商船がより近くにある場所だ。大阪港はコンテナ船などさまざまな船があるが、ATCからは当社グループの『さんふらわあ』が運航する別府航路と志布志航路の船が発着している。
上田館長によると、「横浜や名古屋、神戸にも海洋関連の博物館があるが、これは港の歴史が中心になる。一方で海運自体に特化した博物館がない」ことが、博物館創設の出発点になっているといいます。
「たとえば、エネルギーをこのように海外から運んできているとか、船が運んできたおかげで今の生活があるということに重点を置いたミュージアムが必要だと以前から思っていた。子どもたちに海運の役割と魅力を伝えたいという、私の想いが詰まった設計となっている。海運や商船三井グループに、少しでも興味を持ってもらえれば、館長としてこれほどうれしいことはない」(上田館長)
ちなみに、「ふねしる」の目の前には、110年以上続くフェリー航路の歴史を伝える「さんふらわあミュージアム」もあり、関西汽船がかつて阪神―別府航路に投入した客船「くれない丸」などの精巧な模型を見ることができます。