東京港で商船三井の最大級7000台積み自動車船「CELESTE ACE」が公開されました。環境負荷の低いLNG燃料を使用し、AI技術や船員の福利厚生も充実した新鋭船です。
東京港・東京国際クルーズターミナルで2025年7月21日、国土交通省や日本財団などが共催する「海の日記念行事」の一環として、商船三井の新しい自動車船「CELESTE ACE(セレステ・エース)」が公開されました。
商船三井の自動車船「CELESTE ACE」(深水千翔撮影)
「CELESTE ACE」は新来島どっく(愛媛県今治市)が受注し、同社の大西工場で建造されました。2024年9月13日に竣工した新鋭船で、主に日本―欧州間の完成車輸送に投入されています。
全長は199.96mで総トン数は7万4000トン、自動車積載能力は商船三井グループで最大級となる7000台積み。環境負荷の低いLNG(液化天然ガス)を主な燃料として使用する新鋭自動車船「BLUE」シリーズの3隻目です。
船内は12層構造でスロープの位置や動線を最適化し、荷役のスピードアップや効率化とともに、さらなる荷役の安全性を実現しました。
「実際の航海では(デッキだけでなく)スロープ部分にも積み付けを行う。アメリカ向けはまだ積み港が3つで揚げ港が4つぐらいだが、ヨーロッパ向けになると積み港が7つで揚げ港が6とか7とかになり、積み下ろしする車両の位置をパズルのように決めていく必要がある」(担当者)
船内に129か所のカメラ操船を行うブリッジは従来の船より広く、ECDIS(電子海図情報表示装置)やレーダーのモニターも見やすくなっており、全体的に明るい作りとなっています。ウィング(ブリッジ左右の張り出し部分)も船内に収められ、悪天候時でも雨に濡れることなく勤務ができるようになりました。
このブリッジにはAI(人工知能)カメラのモニターも置かれています。これはイスラエル企業キャプテンズ・アイが開発したAIシステムで、商船三井では電気自動車(EV)の火災対策として自動車船への導入を進めています。
ほかにも、船内には129か所にカメラが設置されており、AIが画像を分析して煙などの異常を自動検知し、アラームで乗組員や陸上の管理者に知らせるようになっています。
この船は、外航船員の課題とされている「働き方改革」もテーマのひとつ。乗組員の福利厚生として、高速で低遅延接続が可能な衛星通信サービス「Starlink(スターリンク)」も導入しました。LINEの動画通話が可能な通信品質が確保されており、乗組員が家族と動画を通じてリアルタイムでコミュニケーションを取ることができます。

車両の積み付けのワザも披露(深水千翔撮影)
もう一つ特徴的なのは、船内に居室でも職場でもない、憩いの場となる第三の場所「IKOI」を導入したことがあげられます。外に面したカウンターやパーソナルブース、足をのばせる空間が設けられており、ここだけフェリーのような雰囲気となっています。「IKOI」の吹き抜けからは1層下のトレーニングルームも見ることができ、長期の航海でも健康の維持と精神的ストレスを軽減できるような取り組みが進んでいることが伺えます。
“バイオLNG”も初使用前出の通り、エンジンはLNGと重油の双方を使える二元燃料(DF)対応です。LNGは従来の燃料油に比べてCO2(二酸化炭素)の排出を約25-30%、SOx(硫黄酸化物)の排出を約98%、NOx(窒素酸化物)の排出を約85%削減することが可能で、外航海運を中心に採用が広がっています。
ただ、LNGのバンカリング(供給)に関しては国内のバンカリング船がまだ少ないため、シンガポールなど海外で行っているとのことです。
その一方、「CELESTE ACE」は今年3月にベルギーのゼーブルージュ港で約500トンの“バイオLNG”燃料の供給を受けました。カーボンニュートラルも実現可能な廃棄物や残渣由来のバイオLNG燃料を船舶の運航に使用するのは、邦船社の外航船としては初めてで、商船三井はさらなるCO2の削減へ挑戦していきます。
同社が新造整備する新造LNG燃料自動車船「BLUE」シリーズは、1番船の「CERULEAN ACE」から「青」にまつわる船名が付けられています。青とグリーンを全体に配し、白い「A」の文字を大きく描いたカラーデザインの船を見かけたら、それは船員の働きやすさと環境に配慮した次世代を担う新しい自動車船です。