外国基準では、もがみ型は一般的に「フリゲート」に分類されます。この艦種はニュースなどでも耳にすることがありますが、イメージしづらいという人も多いかもしれません。
オーストラリア国防省は2025年8月5日、同国海軍向けに導入予定の新型フリゲートについて、日本のもがみ型護衛艦のアップグレードモデル、いわゆる「改もがみ型」(自衛隊呼称:新型FFM)をベースとした交渉を進めていると発表しました。
国際的にはもがみ型護衛艦はフリゲート扱い(画像:海上自衛隊)
ところで、海上自衛隊の艦艇はすべて「護衛艦」として扱われますが、外国基準では、もがみ型は一般的に「フリゲート」に分類されます。この艦種はニュースなどでも耳にすることがありますが、イメージしづらいという人も多いかもしれません。空母や駆逐艦など、他の水上艦艇とどう違うのか、その出自や概要について見てみましょう。
日本では、Aircraft Carrier(空母)、Cruiser(巡洋艦)、Destroyer(駆逐艦)、Submarine(潜水艦)といった軍艦の英語名には、対応する日本語訳が用いられています。しかし「Frigate」に関しては、「フリゲート」というカタカナ表記のままで、日本語独自の艦種名は存在していません。その理由については明確ではありませんが、日本が本格的に艦種分類を始めたのは明治時代にまでさかのぼります。
旧日本海軍が1898年(明治31年)3月21日に定めた「海軍軍艦及水雷艇類別標準」で、初めて艦艇の種類が制度的に区分されましたが、この時期にはすでにフリゲートという艦種は世界の主要海軍から姿を消しており、存在していませんでした。したがって、日本語訳が生まれることもなかったのではないかと考えられています。
1945年、日本の敗戦とともに旧海軍は解体され、この艦種分類も消滅しました。その後、新たに創設された海上自衛隊では、水上艦艇のほとんどは「護衛艦」と総称することになったため、「フリゲート」という言葉が日本語に訳されることはなく、現在に至っています。
昔と復活した現在では全く役割も違う!さて、そもそもフリゲートとはどのような艦なのでしょうか。

帆船時代のフリゲートであるアメリカの「コンスティチューション」(画像:アメリカ海軍)
ちなみに、イギリス海軍ではフリゲートに商船拿捕の任務も与えられており、奪取した金品が乗組員にも分配されたことから、フリゲート勤務は将兵の間で人気が高かったとも言われています。
「フリゲート」という呼称が再び使われるようになったのは、第二次世界大戦中のことです。イギリスが、駆逐艦よりも小型で対潜能力を備え、量産性に優れた「リバー級」小型艦を開発し、これをフリゲートと呼びました。戦後、イギリス海軍はこの実績をもとに、駆逐艦より小型で、速力24~32ノット(約44.4~59.3km/h)、航洋性に優れた艦艇を「フリゲート」と定義。他国もこれに倣い、同様の艦をフリゲートと呼ぶようになっていきました。
とはいえ、「おおむね」という表現を用いたのは、アメリカ海軍が独自の解釈をしていたためです。同海軍では当初、駆逐艦より大型で、対潜・対空能力に加え、指揮・通信機能を強化した艦を「フリゲート」と呼んでおり、それらは巡洋艦に近い存在でした。しかし、こうしたフリゲートは次第に大型化し、1975年には基準排水量5,670トン以上の艦を巡洋艦に、以下を駆逐艦に艦種変更したことにより、米海軍における「フリゲート」は事実上、姿を消すこととなりました。
一方で、第二次大戦中に登場したリバー級フリゲートの満載排水量はおおよそ1900~2180トンでしたが、戦後のフリゲートは大型化が進み、基準排水量5,800~6,800トン級の艦もフリゲートと呼ばれるようになりました。駆逐艦も同様に大型化が進んでおり、駆逐艦と巡洋艦の境界も曖昧になりつつあります。
2000年代後半以降、世界各国ではそれまで補助的な艦船として位置づけられていたフリゲートを、多様な任務に従事する軍艦へと発展させ、積極的に建造するようになっています。

アメリカ空母と一緒に航行するフリチョフ・ナンセン級(画像:アメリカ海軍)
たとえば、ロシア海軍のアドミラル・ゴルシコフ級は、巡航ミサイルや極超音速ミサイル「ツィルコン」など多彩なミサイルを搭載した重武装が特徴です。ほかにも2025年に来日予定のノルウェー海軍フリチョフ・ナンセン級は、簡易的なイージスシステムを搭載するミニイージス艦となっており、同国艦隊の防空の要を務めるほどです。ちなみにこの2隻に関しては満載排水量が5500トン程度でもがみ型に近いですが、世界ではもっと巨大な艦も「フリゲート」扱いを受けています。
オーストラリアでの採用競争でのライバルであったドイツのF126(ニーダーザクセン級)フリゲートに関しては、全長は約166m、排水量は最大1万1000トンになるとされており、この数字は、アメリカ海軍のイージス艦であるアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦よりも若干大きくなります。イギリスに目を転じると新型の大型フリゲートである26型フリゲートの一番艦「グラスゴー」が進水を終え、就役に向けて艤装中ですがこの艦も満載排水量が8000トンで日本のまや型よりも若干小さい程度です。
ここ数年、世界の艦艇トレンドはフリゲートだといっても過言ではないかもしれません。2022年8月には、アメリカ海軍がイタリア製フリゲートのカルロ・ベルガミーニ級をベースに久しぶりにフリゲートを建造すると発表し世界の海軍関係者の注目を集めました。ちなみにこの艦は満載排水量が7000トンクラスです。
現在、世界各国の海軍では中規模の多用途任務に使用する扱いやすい艦を便宜上フリゲートと呼んでおり、明確に共通した定義がある訳ではないようです。クルマのSUVや90年代や00年代前半の親がゲーム機のことを全て「ファミコン」や「ピコピコ」と呼んでいるのと同じような感覚かもしれません。