世にいう「空飛ぶクルマ」とはちょっと違って

 米国のベータ・テクロジーズが開発中の航空機「CX300」はユニークな特徴を持つ機体です。まずひとつは電動であること、そして民間型を想定したものとして珍しく、滑走路を使って発着する通常離着陸型(CTOL)と垂直離着陸型(VTOL)の双方を実用化しようとしているのです。

【写真】えっ…これが「何ジャンルかわからない」的な航空機の全貌です

 CTOLとVTOLの同時開発としては航空自衛隊も採用したF35A、B戦闘機がありますが、CX300も同じ流れで進んでいます。飛行に成功しているのはCTOLで、2025年6月の国際航空展示会パリ航空ショーでも機内を公開したりデモ飛行を行ったりしました。

 電動・垂直離着陸という特徴を持つ小型の航空機「eVTOL」機となると、いわゆる「空飛ぶクルマ」と呼ばれるジャンルのものに思えます。筆者は、「空飛ぶクルマとはこれまでの航空機とどう違うのか」という疑問を一層大きくさせるのが、このような特徴を持つCX300だと考えています。

 その会場で別の空飛ぶクルマのメーカーへ取材中にCX300も展示例として挙がったので、「CTOLなら航空機ではないですか」と聞き返すと、「確かに」とメーカー社員。「ベータ・テクロジーズに聞いてください」と返すこともなく、お互いに「確かに……」と繰り返し、ジャンル分けを明確にできず苦笑いのまま話は終わってしまいました。

 空飛ぶクルマは、一般的には電動化・垂直離着陸ができる・自動化された乗りものなどと定義され、飛行高度や飛行距離も既存の航空機と異なります。しかし、実際はメーカー社員ですらもこの機はどっちなのか迷うようでした。混乱を招いているわけではありませんが、強いて言えば、前衛的な「尖った」スタイルが多いのは確かなようです。

CX300から見る「空飛ぶクルマ」って?

 CX300は外観こそ、「く」の字にやや曲がった主翼などからなかなか“尖って”いますが、よく見ると左右のポールで主翼と尾翼をつなぎ、胴体後部にプロペラを付けたスタイルは既存の航空機で既に見ることができます。ちなみに、VTOLタイプではこのポールに垂直離着陸用のプロペラが付くとのことです。

 とはいえ、VTOLタイプだったとしても、よくある「人の乗れるドローン」の設計をした「空飛ぶクルマ」よりも、CX300は既存の機体っぽく仕上がっているのは確かでしょう。

 なおCX300は、CTOL・VTOLの設計や生産工程については約80%が共通なものの、パリ航空ショーでデモ飛行したのはCTOLタイプでした。これは実用化へのハードルという点で、CTOLタイプが低いことを意味します。実用化についても、既存の空港の充電設備が普及すれば、CTOLタイプの方が早いでしょう。客室も広々とし、小型貨物機として使い勝手もあると思えます。

「空飛ぶクルマ」は、飛行機よりも車みたいに身近な新しい空の交通形態登場への期待もあり、新ジャンルとして広まったように思えます。この名がこのまま残るか今後、「航空機」というカテゴリのなかに集積されてしまうかまだ分かりませんが、実用化すれば生活が便利になる可能性が期待できます。そうした意味では、CX300の実用化も待たれるところです。

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