良スペックもわずか45機で生産終了

 今年で創立100周年を迎えた航空機エンジン大手のプラット・アンド・ホイットニー社が、2025年7月にオシュコシュ空港で開催された航空ショー「エア・ヴェンチャー」にて、特別な改修が施された「ボーイング747SP」を公開しました。この機体は、世界的に見ても非常に貴重なものです。

しかも今回、その機内に入ることができました。

【写真】すげえ…これが「世界屈指の奇怪な激レア機」機内と全貌です

 世界初のワイドボディー(複通路)機として登場し、日本でも「ジャンボ機」として親しまれたボーイング747ですが、初期の機体は航続距離がさほど長くなく大西洋横断もしくは太平洋横断がやっとでした。

 当時の太平洋路線は東京から北米西海岸までの路線が直行便では限界で、その路線でさえ、向かい風が強い西向きの便だと、アラスカ州のアンカレッジで給油のため着陸せざるを得ない状況でもありました。

 そのような時代、かつて「パンナム」として知られたアメリカの超大手、パンアメリカン航空が、他社に先んじて、ニューヨークから東京へ直行便の就航を計画します。このパンアメリカン航空の要求に答えて開発されたのが「747SP」でした。

 747SPの特徴は、なんといっても全長70mを超える巨大機747シリーズのなかで、胴体が短い派生型となっているということです。これは胴体短縮で機体重量を抑えるにより、抵抗を減少させて航続力を確保するという狙いで、実際に747SPを用いてパンアメリカン航空はニューヨーク~東京線の直行便の開設に成功しています。

 ところがそのようなスペックにも関わらず、747SPの生産はわずか45機で終了しました。これはエンジン出力を増加させた派生型の出現に伴い、短胴型でなくとも十分な航続距離を確保できるようになったためです。

 その後、パンアメリカン航空は太平洋線から撤退したため、早々と747SPの運航を終えてしまいましたが、2000年頃までカンタス航空やイラン航空が成田へ747SPを運航していたのを覚えている方も多いのではと思います。

 しかし、すでに747SPを運航している航空会社はなく、現在飛行可能な状態で維持されている最後の747SPがプラット・アンド・ホイットニー社の保有する2機です。ただ、この機の使用目的は、旅客便の運航ではありません。

その目的から、通常の旅客機ではまず見られない、ユニークな改修が施されました。

本番では奇怪な姿になるレア機、その機内はどんなもの?

 プラット・アンド・ホイットニーが保有する2機の747SPは、テスト用のエンジンを取り付けるためのハードポイントがコックピットの後方右側に設けられているのが外観上の特徴です。

 これらの機体は、同社開発中のエンジンを様々な気象条件の中で、実際の飛行時に想定される全ての速度範囲と高度範囲で各種データを収集する「テストベッド機」の役割を担っています。そのため、エンジンテスト時には両翼4発に加えて、右側のハードポイントにさらに1基のエンジンが追加され、左2基、右3基という、ある意味奇怪ともいえるエンジン構成で飛ぶことがあるのです。

 なお、同社ではこのテストベッドを用いて2001年以来71種類の異なるエンジンの地上運転試験と飛行試験を1400回実施してきたと発表しています。

 さて、その機内に入ってみると、様々な機器がびっしりと配置されていて、その背後にモニター席が配置されていました。計測員の一人の説明によると、通常15人態勢で飛行するとのこと。また、テスト用エンジンがコックピットの近くにあるため、エンジン爆発を未然に防ぐことには特に注意が払われており、試験中に故障の兆候が発見された際には迅速に試験を停止させる体制をとっていると話してくれました。

 筆者としては久しぶりに再会した747SPでしたが、エンジンメーカーでピカピカに磨き上げられた状態で大切に使用されている姿を見て何とも言えない嬉しさを感じました。

 なお、エア・ヴェンチャーの開催期間は1週間でしたが、747SPの参加は前半の三日間のみで、その後カナダ、ケベック州のホームベースへ帰投しています。

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