「致命傷にはならなかった」と関係者

 群馬県に行楽客を呼び込む目玉となっているJR東日本の蒸気機関車(SL)の「D51形498号機」が、2025年夏のSL列車運行初日となった7月19日に故障しました。当初は「極めて重症」と懸念されて早期の運行再開は難しいと見られていましたが、一転、復活の可能性が出てきました。

【人呼んで…「死神」】これが超話題になった「SLの代役」です(写真)

 関係者は筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)の取材に対し、修理完了後の試運転が順調に進めば再投入できる可能性があると明らかにしました。筆者はさらに踏み込み、可能性のある再開時期についても尋ねました。

 トラブルが起きた初日は、ディーゼルエンジンで発電した電気でモーターを回して走る電気式気動車GV-E197系のデビューにもなった一番列車でした。高崎駅(群馬県高崎市)から信越本線で横川駅(安中市)へ向かう快速「GV・SLぐんま横川」は先頭のGV-E197系が牽引し、3両の12系客車を挟んだ最後尾にD51形498号機をつないでいました。

 高崎を出発後、本来は回っていなければならないD51の動輪が止まったまま引きずられ、この故障によって列車は1つ目の停車駅の安中で運転を打ち切りました。

 JR東日本は今のところ原因を発表していません。一部では出発時にD51の機関車だけにブレーキをかける単独ブレーキ弁が解除されていなかったのではないかとの見方がある一方、これを訝しがる向きもあります。

 故障後にD51は運用から外され、JR東日本関係者は筆者の8月上旬時点の取材に「D51の損傷ぶりは極めて重症で、修繕の見通しも立たない状況だ」と解説していました。

 しかし、その後の調査で致命傷には至らなかったことが分かり「委託先の企業がお盆期間を返上して動輪を修理した」そうです。

SL2機とも戦線離脱の異常事態

「デゴイチ」の愛称で親しまれているD51形は、第二次世界大戦を挟んだ1936―50年に1115両が製造されました。498号機は40年に旧・鉄道省鷹取工場(神戸市)で製造され、岡山県や大阪府、福島県、新潟県などで72年まで32年間活躍。いったん引退して上越線の後閑(群馬県みなかみ町)の駅前に展示して静態保存されていましたが、SL列車の牽引機として抜擢され、88年に動態保存へ転じて”第二の人生”を歩み始めました。

“重症”の懸念あった「群馬のSL」早期復活できるかも! “2...の画像はこちら >>

GV-E179系の運用開始を知らせるポスター。この一番列車の運行でD51形498号機が故障した(大塚圭一郎撮影)

 群馬県のSL列車に使われるのはD51形498号機の他に、三菱重工業三原製作所(広島県三原市)が1949年に製造した「C61形20号機」があります。運休翌日の2025年7月20日に高崎から横川へ向かった「GV・SLぐんま横川」と横川から高崎への「SL・GVぐんま横川」はD51の代わりにC61を連結し、7月26、27両日と8月2、3両日に高崎―水上(みなかみ町)間を往復した「SLぐんま水上」もC61をつなぎました。

 しかし、C61は検査周期が来たため8月6日に大宮総合車両センター(さいたま市)へ運ばれました。JR東日本関係者は「D51の故障を受けて代走させるため、C61の大宮総合車両センターへの検査入場の日程を繰り下げた」とするものの、C61の検査入りを受けて群馬県で動態保存されているSL2機がともに戦線離脱する異常事態に陥りました。

 夏休みのヤマ場となる2025年8月9―11日の「山の日」3連休での運休を避けるため、新潟車両センター所属の電気機関車EF64形1031号機(1981年製)が運用に就きました。

 EF64形1031号機は、引退した電車を引っ張って解体する工場などへ運ぶ役割を担ってきたため、鉄道ファンから「死神」の俗称を付けられています。話題性のある機関車の緊急登板を受けて客車はほぼ満席となり、沿線には大勢の「撮り鉄」が押しかけました。

運行再開はいつ?

 JR東日本は2025年8月16日以降の土曜と日曜の「SLぐんま水上」は、SLの代わりにGV-E197系で牽引し、「SLけん引機が変更となる列車へのご乗車を希望されないお客さまは、ご旅行開始前であれば、乗車券類は無手数料で払いもどしいたします」と説明しています。

 しかし、JR東日本関係者は「D51形498号機の修理後の試運転を早ければ8月25日にも始め、順調な場合には9月にも運行を再開できる可能性が出てきた」と説明しました。具体的な運行再開日は未定だそうですが、もしも順調ならば9月に設定されている6、7両日の「SLぐんま水上」、13日の「GV・SLぐんま横川」と「SL・GVぐんま横川」で再び運行できる可能性もあります。

 D51の復帰が具体的にいつになるのかは依然不透明ですが、上州路を再び力強く駆ける日が1日も早く訪れることを期待したいところです。

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