今や乗用車の人気ナンバーワンとなっているホンダの軽スーパーハイトワゴン「N-BOX」。その最大のライバルと言えるのがスズキ「スペーシア」です。
【振れ幅ありすぎ!】これがスペーシアの放った「逆転打」です(写真で見る)
しかし、スペーシアの人気は当初から高かったわけではありませんでした。人気モデルとしての今の地位は、スズキが地道に商品力を磨きながら築いたものでもあります。
初代スペーシアは2013年、先代モデルに当たる「パレット」の後継車として発売されました。パレットは2008年、軽スーパーハイトワゴンのパイオニアであるダイハツタントの対抗馬として登場しましたが、人気は今ひとつ伸び悩みました。さらに2011年には初代ホンダN-BOXが登場し、パレットどころかタントも引き離して市場を独走。パレットはますます存在感をなくしてしまいました。
パレットの反省を活かして生まれた初代スペーシアは、ターゲットユーザーであるファミリー層の使い勝手を考え、企画・設計を全面的に見直しました。プラットフォームはロングホイールベースの新タイプを採用し、室内長2215mmという広大な居室スペースを確保。その仕上がりは、いっそう気合の入ったものに進化していました。
また、初代スペーシアは走行・燃費性能にも目を見張るものがありました。パワートレインの高効率化や走行抵抗の低減に取り組むとともに、車両重量はクラス最軽量となる840kg(G・2WD 車)を実現。
後に「スモールモビリティ部門賞」を受賞するに至った「日本カー・オブ・ザ・イヤー2013-2014」では、「新しいスモールモビリティの手本になる」と絶賛されるほどでした。
グレード体系は当初、パレット譲りのシンプルな顔立ちを持つ基本モデルのみでしたが、後にワイルドなエクステリアとターボエンジン搭載車を持つ「カスタム」が登場。刑事ドラマ『西部警察』をオマージュしたテレビCMでは、ターボとエネチャージの加速力を「グーン、ダーン!」のキャッチコピーで表現。子育て層だけでなく、スタイリッシュな軽を求めるシニア層にもアピールしました。
その一方、スペーシアの「低燃費で室内の広い軽スーパーハイトワゴン」「ファミリー向けモデルとカスタム系グレードの2本立て」という商品構成は、タントやN-BOXと同じものでした。そうしたなか、スズキは”スペーシア独自のポジション”を獲得すべく模索を始めます。
ハスラーで何か掴んだ?まず、2016年にはカスタムの上をいく“ヤンチャグレード”の「カスタムZ」が登場。メッキパーツを多用した迫力のある顔立ちで、若い男性などからの支持拡大を目指しましたが、今一歩ヒットには至りませんでした。
初代スペーシアは、ロングホイールベースの新プラットフォームによって大きな室内空間を実現(画像:スズキ)
そこで、2017年に発売した2代目スペーシアではアプローチ手法を変更します。全高やホイールベースの拡大、ドア断面構造の見直しなどによってさらに室内スペースを稼ぎ出しつつ、エクステリアは基本モデル、カスタムともに「スーツケース」をモチーフとした、ガジェット感の強いデザインへと変身。タントやN-BOXとも違う、独自の世界観を構築しました。
そして、2018年にはSUV的なスタイリングを持つ「スペーシアギア」が仲間に加わりました。これはスペーシアカスタムをアクティブに寄せたモデルでしたが、クロスオーバー軽として大ヒットした「ハスラー」のイメージをスペーシアに反映したグレードと言える存在です。
撥水加工を施したファブリックシート、防汚タイプのラゲッジフロアやシートバック背面を採用し、遊び盛りの子どもを乗せても車内を汚さない工夫が施されていました。モデルライフ途中での追加車ながら、老若男女問わず幅広い層からの支持を得ます。
その後も、スペーシアは多様なユーザー層に向けたバリエーション展開に注力し、2022年にシリーズ初の商用登録モデルとなる「スペーシアベ―ス」を追加したほか、2023年には現行型となる3代目へとフルモデルチェンジしました。現行型は新型プラットフォーム「HEARTECT」を採用し、デザインモチーフは“スーツケース”から“コンテナ”へと発展しました。
そして2024年5月にはついに、軽の月間販売台数でN-BOXを破り、念願となるトップセールスを記録。同年9月にはギアもモデルチェンジを果たし、ラインナップの強化に今なお取り組んでいます。
歴代とも標準モデルは「扱いやすい女性ドライバー向け」としながらも、その優れた性能を活かしたスペーシアカスタム、スペーシアギアといった派生モデルによって、幅広い層から支持を得てきました。こうした商品開発が実を結び、現在ではワゴンRに代わる、スズキの主力モデルへと成長を遂げました。