韓国での炎上事故をきっかけに規制強化へ

 2025年現在、航空機への「モバイルバッテリー」の持ち込みや機内での利用について、各航空会社や各国の航空当局による規制が強まっています。その背景にあるのは、モバイルバッテリーの発火に起因する航空機事故のリスクです。

【けっこうコツが…】これがモバイルバッテリーを「没収されない方法」です(画像)

 本年1月、韓国の金海空港で発生したエアプサン391便炎上事故では、座席上の収納棚に入れた荷物に含まれるモバイルバッテリーが火元と見られる火災により、機体が大きく損傷する結果となりました。幸い離陸待機中だったことから、乗客乗員176名は機外に全員脱出し、死者は出ませんでした。しかし出火のタイミングによっては「飛行中の航空機火災」という大惨事につながる可能性があったのです。

 こうした事態を受け、日本の国土交通省は7月8日に「モバイルバッテリー」の取り扱いに関するプレスリリースを発出しました。

 このプレスリリースではまず、モバイルバッテリーの取り扱いについて、これまでの航空法に基づく次のような指導を再確認しています。

・預け入れ荷物に入れない。
・端子に絶縁テープを貼る、ケースや収納袋に入れる。
・出力が160Wh以下であることを確認する。
(リチウムイオン電池の場合、モバイルバッテリーの容量表記で一般的な単位mAhに換算すると、160Wh=約4万3000mAh、100Wh=約2万7000mAh)

 そのうえで新たに次のふたつの項目を「協力要請事項」として示しました。

・モバイルバッテリーを座席上の収納棚に収納しないこと。
・機内でのモバイルバッテリーから携帯用電子機器への充電又は機内電源からモバイルバッテリーへの充電については、常に状態が確認できる場所で行うこと。

 そして定期航空協会に加盟する日本の航空会社各社は、この内容に沿ったモバイルバッテリーの取り扱いを、搭乗客にお願いしています。

 ただこれはあくまで日本のレギュレーションです。世界各国の航空会社は、モバイルバッテリーの機内への持ち込み、機内での利用について、どのようなルールを設けているのでしょうか。

世界各国で異なる規制内容!

 世界の主な航空会社がウェブサイトで公開する情報をもとに、モバイルバッテリーの取り扱いを見ていきましょう。

あわや没収!「モバイルバッテリー機内持ち込み」世界で規制強化...の画像はこちら >>

日本からの出発時はOKでも、海外からの帰国時は規制が違うこともあり得る。写真はイメージ(乗りものニュース編集部撮影)

 まず基本的にすべての航空会社で共通しているのは、「預け入れ荷物に入れずに機内持ち込みすること」「持ち込んだモバイルバッテリーは座席上の収納棚に収納しないこと」です。また機内持ち込み可能なモバイルバッテリーの出力は「160Whが上限で、100~160Whは2個まで」としているところがほとんどです。

 こうした共通のルールに加え、各航空会社、各国の航空当局による個別の規制が行われています。その主な相違点は、機内でのモバイルバッテリーの「充電と使用」にあります。

 日本の航空会社は、先に述べたように、目に届くところであれば、モバイルバッテリーの充電も、モバイルバッテリーを使用した携帯機器の充電も、ともに認められています。またアメリカの航空会社はFAA(連邦航空局)、TSA(運輸保安局)が定めるルールにより規制されますが、こちらも日本同様に機内での利用は可能です。

 しかしヨーロッパの航空会社に目を移すと、ルフトハンザ航空は、モバイルバッテリーは絶縁したうえで輸送許可が必要で、機内での充電は禁止としています。

 ブリティッシュエアウェイズは、100~160Whのモバイルバッテリーについて、申告は不要ながら、端子をテープで絶縁することを求めています。

エールフランスは、持ち込みについて事前許可が必要としています。ただしこの両社は、機内での使用について、ウェブサイトに記載がありません。

アジアはもっと厳格!

 一方、アジアの航空会社は、これよりも厳しい規制となっているのが一般的です。

 先に挙げた事故の当事国となった韓国では、100~160Whのモバイルバッテリーについては、端子部分をテープで覆う、個別にジップロックなど密閉できる袋に入れるなどしてショートを防いだうえで、チェックインカウンターで確認を求め、交付される「承認済みシール」の貼付をしなければ、機内持ち込みできません。また機内ではモバイルバッテリーへの充電も禁止されます。

 タイ航空、シンガポール航空、エアアジアも、韓国の航空会社と同等の規制を行い、かつ機内での充電だけでなく、利用も禁止するとしています。

世界一厳しい!? 規制に乗り出すエアライン

 もっとも厳しいと思われる規制に乗り出すのが、エミレーツ航空です。同社では2025年10月1日より、機内持ち込みできるモバイルバッテリーを100Wh以下のもの1台に限定するほか、機内での充電、利用も禁止されます。

あわや没収!「モバイルバッテリー機内持ち込み」世界で規制強化 “充電できない”危機も 知っておくべき“お作法”
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エミレーツ航空(画像:エミレーツ航空)

 モバイルバッテリーの機内持ち込みに対しての規制はこのようにさまざまですが、実際にはウェブサイトでの情報の記載が曖昧な航空会社も一部あります。また同じ航空会社を使った往復旅程でも、日本から海外の往路では大丈夫だったモバイルバッテリーの持ち込みが、帰路は出発地となる国の規制により不可とされる可能性もゼロではありません。

 没収などのトラブルを防ぐために守るべき共通の”お約束”は、「100~160Whのモバイルバッテリーの持ち込みは2台以下とすること」「端子をテープで絶縁した上でジップロックなどへ個別に入れ、チェックインカウンターで確認を求めること」で、もし不安な場合は出発日より前に各航空会社に個別に問い合わせる必要がありそうです。

 さらに中国国内線のように、国内規格「3C認証」を受けたモバイルバッテリーのみ、機内への持ち込みを許可しているケースもあります。

この場合は「Anker」など有力中国メーカーのものを用意するのが最善でしょう。

 なお、機内でのスマホへの充電が不可とされた場合、たとえ渡航先でローミングできるSIMを用意していたとしても、バッテリー切れでスマホが使えずに到着空港で右も左もわからないという状況に陥る可能性があります。

 そうした事態を避けるためには、やはり出発地の空港の電源でスマホをフル充電とした上で、チェックイン時に機内でのモバイルバッテリーからの充電の可、不可ついてしっかり確認し、充電が不可であれば、スマホのバッテリーの残量に留意しつつ使うべきでしょう。

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