現代の航空戦を考えるとき、戦闘機や爆撃機の性能ばかりが注目されがちです。しかし、航空優勢を獲得し、長駆飛んでいく必要がある作戦を遂行する際に必須の「影の主役」というべき存在、それが空中給油機です。
【写真】3Dの立体映像!? これが画期的なKC-46の遠隔ビジョンシステムです
空中給油機がいれば、戦闘機をはじめとする各機の作戦行動半径を飛躍的に拡張することができます。さらに最大離陸重量や飛び立つための滑走距離に制約がある場合でも、とりあえず燃料を少なめにして離陸し、空中で給油することで進空時の兵装搭載量を引き上げることができ、これにより戦力投射の柔軟性が高まります。
冷戦期以降、アメリカ空軍はその重要性を徹底的に理解し、実に400機規模という空前の空中給油機群を維持してきました。アメリカが世界中に軍事的影響力を行使できる理由の1つは、この巨大な空中給油ネットワークの存在にあるといっても過言ではないでしょう。
日本も例外ではありません。かつて航空自衛隊の空中給油機はわずか4機しかありませんでしたが、近年の安全保障環境の変化を背景に、その数を急速に増やしつつあります。すでに導入を決定した機数は19機に達し、かつての「限られた補助戦力」という位置づけから、「航空作戦の持続性を左右する基盤戦力」へと格上げされつつあります。
日米双方の空中給油機部隊において、中核を担う想定なのがボーイング製のKC-46A「ペガサス」です。しかし、このKC-46は当初の期待に反し、決して順風満帆な道を歩んできたわけではありません。むしろ、運用開始以来、その存在には常に暗雲がつきまとってきました。
最大の問題は、皮肉にも空中給油機の「心臓」ともいえる給油システムにあります。給油方式の中心となる「フライングブーム」は、KC-46では遠隔操作方式が採用されました。
このRVSは、一見すると最先端技術の結晶に見えます。24インチの高解像度3Dディスプレイが並び、複数のカメラから送られる立体映像を通して、操作者はあたかも目視しているかのように受油機へブームを接近させることができる、はずでした。
航空自衛隊のKC-46A空中給油・輸送機。全機が鳥取県の米子基地に配備されている(画像:航空自衛隊)。
ところが、実際にはシステムの精度や表示の遅延、光条件による映像の乱れなどが重なり、受油機との接触が不安定となる事例が相次ぎます。中には受油機の外板にブームが擦れ、損傷を与える事故まで発生したほどです。給油そのものが航空作戦の生命線である以上、この欠陥は技術的瑕疵を超え、戦略的リスクもはらむほどになっています。
アメリカ空軍は問題の重大性を認識し、ボーイングとともに改修作業を続けています。現在配備されているKC-46には「RVS 1.5」と呼ばれる応急対策版のシステムが搭載され、ソフトウェアの調整によって映像処理を改善したとされます。
しかし、これは根本的な解決策ではなく、あくまで「当面の妥協」的な水準にすぎません。抜本的な改良が施されるのは、2026~2027年から導入予定の「RVS 2.0」であり、完全な安定運用にはまだ時間を要するようです。
空中給油機は戦闘の主役ではないものの、その存在なくして近代空軍は「戦える軍隊」として成立し得ません。KC-46の不具合は、まさにこの「影の主役」の重要性を逆説的に示していると言えるでしょう。アメリカと日本の空を支えるべき新世代の翼に、今なお暗雲が垂れ込めていることは、決して看過できない事実です。