1990年代中盤から2000年代初頭ごろ、日本のバイクシーンではいわゆる「ビッグスクーター」が一大ムーブメントを巻き起こしました。「ビグスク」なる略称まで生まれた一連の流行の立役者といえるのが、1995年に登場したヤマハ「マジェスティ」です。
【純正なのに“ワル”な雰囲気!】これが一世を風靡した「マジェスティ」です(写真で見る)
1990年代前半、日本のバイクシーンは「カオス」とも言える状態で、走り屋系のファン層も依然として根強かった一方、ファッションなどのカルチャーと融合した、新しいジャンルのバイクの楽しみ方も次々と誕生していました。ビッグスクーターのブームはその最たるもので、中型クラスのエンジンを搭載したスクーターに、思い思いのカスタムを施して乗り回すのがブームとなりました。
特に当時の渋谷・原宿界隈では、過剰とも思える電飾をボディにまとい、内蔵したスピーカーから爆音でヒップホップを流しながら疾走するビッグスクーターを目にしない日はなかったのですが、その中心にいたのが、1995年にヤマハが発売したビッグスクーター「マジェスティ250」でしょう。
マジェスティ250は従来のビッグスクーターとは一線を画す、エアロデザインのスポーティなエクステリアを採用。それでいて、可変バックレストやハイパワーな新開発の水冷4ストロークエンジンによって、抜群の乗りやすさも実現していました。さらには、前後12インチタイヤやテレスコピックフロントフォーク、フロントディスクブレーキなどの本格アイテムも装備し、従来のビッグスクーターにありがちだった“鈍くさい”イメージを見事に払しょくしていました。
新機軸を持って登場したマジェスティ250は、従来のビッグスクーターユーザーだけでなく、「クルマは買えないけど、バイクなら」といった若い世代や、二輪のライト層を魅了。徐々に支持は拡大していき、やがてビッグスクーターの一大ムーブメントにつながっていったのです。
ブームを牽引しつつ、ブームに翻弄された?マジェスティの人気に対抗姿勢を見せたのが、「スペイシー250フリーウェイ」(1984年発売)や「フュージョン」(1986年発売)などで、ビッグスクーター市場を開拓してきたホンダです。確かにこれらのモデルもブームに乗って人気を博しましたが、最新型であるマジェスティには太刀打ちできない状況でした。
1984年発売のホンダ・スペイシー250フリーウェイ。原付スクーターブームの最中に登場した大型クルージングモデル(画像:ホンダ)
そのようななか、ホンダは1997年にフュージョンの後継車となる「フォーサイト」をリリース。
一方、マジェスティは1999年に2代目へとフルモデルチェンジし、人気は最高潮に達します。当時はマジェスティに2人乗りする、いわゆる2ケツでまたがってブンブン走り回る若者が大量発生しましたが、2代目は量産スクーターで初となる「フルフェイスヘルメットが2個収納できる」シート下スペースを確保。さらに2002年のマイナーチェンジではリモコンキーシャッター、5連メーターを搭載するなど、若者たちの嗜好にも次々と応えていきました。
しかし、ヤマハも“ズルい大人”だったのか、2004年には若者たちの次のニーズを予期した新モデル「グランドマジェスティ」をリリース。グランドマジェスティは“大人のスポーツセダン“を謳い、ツーリングや高速走行時の快適性・安定性などに特化したモデルでした。
ただ、2000年代中盤に差しかかるとビッグスクーターは飽和状態で、ブームは確実に終焉へと向かっていました。マジェスティも2007年、4灯ヘッドライトが特徴的な3代目へモデルチェンジし、シート下スペースの容量アップや、スマートキーシステムなどを備えるなど利便性を向上させる方向に進化したものの、全盛期ほどの支持は得られず、2017年に生産終了しています。
一方、3代目マジェスティの生産終了と前後して、2013年には150ccクラスの小型な「マジェスティS」が登場しています。2010年代は原付二種のバイクが重宝され始めた時代で、「従来モデルではデカすぎる」というユーザーを狙ったモデルでしたが、大ヒットには至らず、こちらも2022年に生産終了。事実上の後継モデルである「X FORCE」にバトンを渡しました。
このように一時代を築いたマジェスティですが、筆者はかつてを振り返った時、乗りやすく使い勝手の良いスクーターという「バイクとしての実力」が、正当に評価されないままだったように感じます。
マジェスティはブームを牽引しつつ、ブームに翻弄された存在でもあったと言えるでしょう。