最初に降りたのは「ボーイング」創始者

 アメリカ西海岸のシアトルは航空機大手メーカー「ボーイング」発祥の地としても有名で、「飛行機の街」でもあります。その大都市の中心街からわずか1マイル(1.6km)の場所にあるユニオン湖(レイク・ユニオン)は「水上空港」として長い歴史を誇ります。

日本ではまず見ない水上空港とは、どのような場所なのでしょうか。

【画像】なるほど…これが驚愕の「湖空港」滑走路配置です

 1916年、この湖に最初に降りたのがボーイングの創始者でもあるウィリアム・E・ボーイングでした。つまり水上空港としては100年以上の歴史があることになります。

 ユニオン湖の南側にはシアトル中心街、北側には閑静な住宅地が広がっています。そのため、利便性は抜群の空港といえます。ユニオン湖の広さは2.3平方キロメートルなので決して大きな湖ではありません。市街地に囲まれた風光明媚なユニオン湖は週末にはプレジャーボートやカヤック、ウインドサーフィンなどを楽しむ多くの市民で賑わいます。また、ユニオン湖はシアトルの東に広がるワシントン湖とプジョーサウンド湾を繋ぐ運河の一部でもあるため多くの船舶が行き来します。

 そのような過密水域の真ん中に水上機が発着する光景は、ユニオン湖では当たり前です。これらは、どのように規則正しくオペレーションされているのでしょうか。

 これには秘密があります。湖の真ん中には水上機が発着するための「水上滑走路」が、南北方向に長さ9500フィート(約2900m)、幅300フィート(約91m)にわたって設定されています。

その滑走路の場所を示すブイが湖の南北方向に5基設置されていて、水上機が発着する際に点滅する黄色灯が組み込まれています。

 水上機が使用する水域の中は船舶などの航行も可能ですが、ブイの黄色灯が点滅している場合はブイから東もしくは西方向に200フィート(約60m)離れることになっています。これにより普段は多くの船舶が行き交う湖面でも安全に水上機が運航されているのです。

「海の上の都市型空港」日本はどう見るべき?

 ユニオン湖を拠点として多くの路線を運航しているケンモアエア(Kenmore Air Harbor, Inc.)は北米最大の水上機運航会社であると自称しており、陸上機も含めて20機以上の水上機を運航しています。同社はシアトルからカナダ・バンクーバーにかけてプジョーサウンド湾内に広がる多くの島々や入り江などに水上機を運航しています。なお、2022年の統計ではユニオン湖における航空機の発着数は4万3500回。そのうち82%がエアタクシー、18%が自家用であると発表されています。

 このデータは、水上機が昼間の有視界飛行しか行わないことを考慮すると、かなりの頻度で運航されていることを示します。それと同時にユニオン湖が水上空港として重要な役割を果たしていることがわかります。

 さて、この航空先進国アメリカならではの状況を、日本の空港の運用ルールの視点からはどのように見ればいいのでしょうか。

 海上空港・陸上空港という違いはありますが、ユニオン湖と同じく市街地に囲まれた東京都の調布空港に比較してみましょう。そうすると問題点が浮かび上がります。

 調布空港の発着回数は2020年の数字で5613回。調布空港の数字が極端に少ないのは東京都が定めた調布飛行場供用規定により制限されていることが理由ですが、この規定は大都市に存在する貴重な空港としては、そぐわない内容であると筆者は考えています。

 一方でユニオン湖の場合、地域の住環境を守るため、水上機を運航する航空会社と周辺市との間で1989年に合意書が交わされています。その合意書の中で水上機の航路や離着陸コースなどが規定されました。ユニオン湖ではこの合意書により、調布空港のおよそ8倍の発着回数を運航しながらも、湖周辺の良好な住環境が維持されています。東京都と調布空港の地元三市はこうした海外事例を踏まえ、今の規定を大都市である東京向けに改定することを検討しても良い時期なのではないでしょうか。

 それくらい、大都市シアトルのど真ん中にある過密湖面で多くの船舶と水上機が共存している姿は見事としか言いようがありません。100年を超える水上機空港としての伝統とともに、ユニオン湖が市民のレジャーの場所として、さらに地域交通の拠点としても重要な役割を果たしていることは大いに参考にする価値があるのではと感じます。

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