訪米中であったシンガポールのチャン・チュンシン国防大臣は2025年9月10日、アメリカ国防総省においてピート・ヘグゼス国防長官と会談し、その席上でシンガポール軍向けにアメリカ製の哨戒機P-8A「ポセイドン」の導入を決めたと伝えました。導入数は4機で、これにより現在運用中の5機のフォッカー50哨戒機を更新する計画です。
【そこが開くの!?】ウエポンベイから魚雷を投下した瞬間のP-8です(写真)
P-8Aはアメリカ海軍向けの海洋哨戒機として開発された機体で、ボーイング社のB737旅客機をベースにしています。対潜水艦戦(ASW)と対水上戦(ASuW)だけでなく、各種センサー駆使した情報・監視・偵察(ISR)任務にも対応することができ、海におけるさまざまな軍事作戦に対応可能です。
また、海中にいる潜水艦を捜すための空中投下式ソノブイを129本も搭載し、対艦ミサイルや魚雷といった各種攻撃兵器を運用することもできます。アメリカ海軍ではP-3C「オライオン」の後継機として約130機が配備済みです。
しかし、P-8Aは機体価格が高価で、1機あたり2億ドル(約300億円)以上すると言われており、かつ導入した場合は運用にあたってのメーカーサポートや予備部品の費用も加わるため、さらにコストは膨らみます。シンガポールはこの価格の高さに懸念を示していたようで、価格がP-8Aの半分程度といわれているエアバス社のC-295 MPAも候補のひとつとして検討していました。
結果的に高性能かつ高価なP-8Aに決めたのですが、その理由はこの機体の性能だけでなく、シンガポールの安全保障政策も大きく関係したと考えられます。
シンガポールは国土の広さが東京23区程度しかない小さな都市国家であり、軍事訓練や演習をアメリカ本土の基地を使って行っています。またアメリカ軍もシンガポールの基地を海外展開で利用しており、実質的にこの国がインド太平洋地域の前方展開拠点となっています。
シンガポールとアメリカは軍事と安全保障において密接に連携・協力しており、そのような緊密度の高い国で運用している機体を導入することは、日々の任務においても相互運用性を確保して防衛力を高めるだけでなく、外交や安全保障政策でも大きな利点となります。
また、P-8Aはアメリカ以外にもイギリス、オーストラリア、ニュージーランド、ノルウェー、韓国、インド(インドのみP-8Iという独自モデル)で運用されているほか、カナダとドイツでも採用し、機体の引き渡しを待っている状況です。
こうした高い普及率から次世代の海洋哨戒任務における標準機材となりつつあるため、多国間での共同任務では機種の共通化による大きなメリットがあるといえるでしょう。