現代の艦艇はハイテクの塊です。機関やレーダー、通信機器はもちろんのこと、果ては食堂の電子レンジまで、様々なものが電気で動いています。
この命綱ともいえる電気が切れる現象、それが「ブラックアウト」です。自宅の停電であれば懐中電灯を頼りにブレーカーを上げればいいでしょうが、海の上ではそうもいきません。
電気が消えれば水上レーダーも対空レーダーも探知不能になるほか、エンジンも動かず、艦内は真っ暗に。航海灯すら点かなくなるため、航行している場所によってはとんでもない大事故を引き起こしかねません。
実際に海上自衛隊では過去、痛ましい事故も起きており、ブラックアウトは絶対に回避しなければならないトラブルのひとつなのです。
とはいえ、ブラックアウトの原因にも色々あり、例えば燃料のトラブルがあります。燃料のフィルターが詰まったり水が混ざったりすると、エンジンが止まってしまいます。他にも、電力を送る制御のトラブルや、操作ミスのような「うっかり」も。
万一ブラックアウトが起きてしまったら、艦の中は大パニック…! にならないよう、機関科の隊員はこういう時こそ冷静に動きます。停電直後は待機発電機(いわゆる補助発電機)に自動的に切り替わり、最低限の照明や大事な機器だけは動かし続けられるようにします。
ただ、ここからが勝負です。必要な装置をひとつずつ確認しながら再起動しつつ、艦の「心臓部」であるエンジンも、ちゃんと冷却できるか、油は大丈夫かなどを入念にチェックしてから再度立ち上げます。
まさかのクラゲ大量発生でブラックアウトしたことも艦橋とも常に連絡を取り合いながら主機(エンジン)を再び動かしてようやく通常運転へと戻れるのですが、ここまでは隊員の皆さんも生きた心地がしないそう。海上自衛官で夫のやこさんもブラックアウトに遭遇したことがあるそうですが、とにかく肝が冷えたと語っていました。
海上自衛隊の護衛艦のイメージ(画像:海上自衛隊)。
とはいえ、ブラックアウトから復旧しても安心はできません。原因が解決しないままだと再びブラックアウトが起きる危険があります。なので、原因調査と再発防止は最重要任務です。再発防止のため、必要があれば港に戻ったりして安全を確保します。
こうして見てみると、ブラックアウトは「ただの停電」とは比べものにならない重大なトラブル。だからこそ、機関科の隊員たちは日々厳しい訓練と整備を重ね、万一の時に即座に復旧できるよう常に備えているのです。
これは余談ですが、停泊中も夏場は海水の汲み上げフィルターにクラゲが大量に詰まってブラックアウト…という事例もあるそう。確かに夏の一般公開などで岸壁近くにいくと、クラゲがたくさん浮いています。航海中だけではなく停泊中も気が抜けないんですね。
日本を守るため、海上自衛隊の艦艇は24時間365日、どこかしらの海を航海しています。どうか今日もご安全にと思わず祈ってしまう「海の上の大停電」のハナシでした。

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