2025年9月22日、中華人民共和国国防部は、空母「福建」において、初となる電磁カタパルト試験の様子を、映像と写真付きで成功したと発表しました。
【写真】カタパルトや着艦フックのディテールくっきり!「福建」の発着艦をイッキ見!
「福建」は2022年6月17日に江南造船所で進水した中国海軍の3番目の空母です。
飛行甲板は発艦と着艦を同時に行うことが可能な「アングルド・デッキ」構造で、大きさ、外見とも米原子力空母に追いついた感があります。ただし動力は通常動力(蒸気タービン)と推測される点が、原子炉を積むアメリカ空母との大きな違いです。
「福建」最大の特徴は、EMALS(Electro Magnetic Aircraft Launch System)、すなわち電磁カタパルトを搭載したことにあります。これは蒸気カタパルトより構造がシンプルで、発進機に合わせた出力の調整が容易という利点があります。これまではアメリカ海軍がフォード級空母で導入しているだけでしたが、中国は独力でこの最新技術を確立したことになります。
公開映像には「福建」からEMALSを使って発艦する3種類の航空機が収められていました。これは多様な機種を発進可能な能力を示すことで、「福建」の運用能力がいかに高いかをアピールしていると思われますが、そうした思惑を差し置いても期待される水準に達していることがわかります。
ただし映像には詳しい日付はなく、全体で半年間くらいかけて集めた映像を編集したものと見られています。
「福建」を飛び立った3機種のプロフィール公開された3機種はJ-15T戦闘機、J-35ステルス戦闘機、そしてKJ-600早期警戒機です。特に後2者、すなわちJ-35とKJ-600の運用能力が実証されたことで、中国海軍の空母航空団の質が大きく向上したのは明らかです。
中国の最新空母「福建」。
既存の空母「遼寧」や「山東」の搭載機は、スキージャンプ台からの発艦であるため、燃料と兵装は半分程度に減らさないと飛び立つことができませんでした。しかし電磁カタパルトの実用化でこうした制約はなくなり、西太平洋の戦略環境は大きく変化する可能性が高まったといえるでしょう。
3機種のプロフィールは次の通りです。
J-15Tは、ロシアのスホーイSu-33を原型に瀋陽飛機公司が独自開発したJ-15艦載戦闘機の改良発展型です。電磁カタパルトに対応するため前脚を強化しカタパルト射出装置に接続するためのローンチバーなどを追加したモデルと言われています。
J-35は、瀋陽飛機公司が開発したステルス戦闘機FC-31(殲-31)の艦載機モデルと考えられています。前出のJ-15系の後継となる第5世代ステルス艦載戦闘機で、制空戦闘だけでなく、対艦および対地攻撃なども担えるマルチロール性を誇ります。そのため、将来的には中国空母航空団の中核となることが期待されています。
KJ-600は中国初の固定翼型の艦載早期警戒機で、西安飛機工業公司が開発を担当しました。双発ターボプロップと大型レドームを搭載する姿は、アメリカ海軍の早期警戒機E-2D「アドバンスド・ホークアイ」と近似しており、事実、類似性も指摘されています。これも「福建」の電磁カタパルト運用を前提に開発された機体で、空母打撃群に長距離探知と指揮管制能力をもたらします。
EMALSの導入により、中国海軍の機動部隊は、運用可能な機体の種類を増やせるようになりました。

空母「福建」の甲板上で発艦準備中のKJ-600早期警戒機(画像:中華人民共和国国防部)。
KJ-600早期警戒機による対空監視能力の向上と、J-35戦闘機がもたらすステルス打撃能力の組み合わせは、中国海軍の洋上攻撃能力がアメリカ海軍のそれに肩を並べるところまで到達した象徴と言えるでしょう。
とはいえ、EMALSの成功だけで「福建」がフォード級原子力空母に匹敵する能力を得たとは見なせません。公開映像は成功例のみで、連続発進時の安定性や故障間隔についての情報がないからです。
アメリカ海軍は、フォード級原子力空母を導入した当初、EMALSの信頼性の低さに苦労しました。数百回作動させれば一度は故障したと言われ、この解決に長い時間をかけています。当然、中国も同様の問題を抱える可能性が高いのではないでしょうか。
またEMALSを作動させるには数十メガワット単位の瞬間出力が必要です。フォード級はこの電力を原子炉が供給しますが、「福建」の推進・発電システムは従来型の蒸気タービンと見られています。このため安定的な電力供給に制約があり、カタパルトの連続使用は難しいほか、大型機や連続発艦時には艦の性能低下さえ招きかねません。
このように「福建」が期待される戦力を獲得するまでには、まだ実証が不足しています。
それでも、「福建」に続いて建造中と言われる「第四の空母」が、もし原子力推進を実現すれば、この差は一気に縮まります。中国海軍が多くの軍事専門家の予想よりも早いペースで、アメリカに追いつこうとしているのは間違いないようです。