「737MAX」の後継に?

 アメリカの「ウォールストリート・ジャーナル」は、アメリカの航空機メーカーのボーイングが、新型旅客機の開発に着手したと報じました。もし新型機が本当に開発されるとすれば、どのような機体になることが予想されるのでしょうか。

【画像】えっ…これが翼に驚愕機構が備わるボーイング「新・世界最長の旅客機」です

 報道によると、新型機は客室通路が1本の「単通路機」であることが想定されており、2025年現在、同社の単通路機の主力製品である「737MAX」の後継となる計画といいます。

「737MAX」は、150席から200席クラスで、ボーイングでもっとも売れた旅客機「737」シリーズの最新派生型です。737シリーズの初期タイプの初飛行は1967年で、そこからその初期設計を活かしつつ、デジタル化や効率の良いエンジンの搭載などの改良を加えた派生型を次々と生み出してきました。

 この「初期設計を活かす」というコンセプトは、既存の737ユーザーにとっては「パーツが共通化されているので、整備コストなどを抑えて新型機を導入できる」というメリットもあり、そうしたことも評価された結果、737シリーズは1万機以上売れたわけです。しかし一方で、基本設計がクラシックであるがゆえ、近年では拡張性の低さも指摘されてきました。

 たとえばエンジン。737シリーズの初期モデルは細長いタイプのものが搭載されてきましたが、近年では燃費効率・静粛性を向上させるべく、サイズが大型化しています。これはファンの直径を大きくすることで、燃焼しない気流と、エンジンコアを通過して燃焼する気流との比率「バイパス比」を高く(燃焼しない気流を多く)できるためです。

 ただ、大きなエンジンを搭載するには、脚を長くして胴体の高さを稼ぐことが必要です。737シリーズはそれが難しく、結果的にはエンジンの下部を潰して「おにぎり型」にする、エンジンの取り付け角度を調整するなどの工夫で対応してきました。

 一方で、この数十年間で民間航空の市場は大きく変わりました。もっとも大きなものはヨーロッパの航空機メーカー、エアバスの出現です。

 同社は1987年、737シリーズとキャパシティが近いとされる単通路旅客機「A320」をデビューさせました。この機体は新設計で操縦面でも革新的な技術も導入され、エアバスをボーイングと双璧をなす巨大航空機メーカーへと押し上げることに。いまやA320シリーズは「世界で最も売れた旅客機」であり、設計が後発であったことも手伝ってか、比較的スムーズに派生型を次々生み出しています。

 こうした市場の変化もあってか、ボーイングは過去に「新型機のプラン」を公開したことがあります。

ボーイングが開発していた「新型機計画」

 それはかつて「NMA(New Midmarket Airplane、新中型機)」と呼ばれた計画で、メディア関係者を中心に「ボーイング797」と呼ばれるようになったプロジェクトです。

 開発が進められていた2019年当時のボーイングの幹部は「NMA」について次のように紹介しています。

「大型の単通路機と、いちばん小さい複通路機の中間にあたるもので、ふたつのモデルを用意する予定です。座席数は220席から270席程度で、需要は4000機から5000機が見込まれます。順調にいけば2020年代中盤にもデビューする見込みです」。また当時の発表によると、航続距離は最大で9000kmを上回る程度。これは10時間超のフライトも可能なモデルであることを意味します。

 同社の主力機のなかでいえば、「最も大型の単通路機」は180席から220席を配する737-900ER、「いちばん小さい複通路機」は210席から250席を配する787-8が該当します。

このほか将来的には188席から230席のキャパシティを持つ「737-10」がラインナップに加わる予定です。

 しかし「NMA」計画は2020年に事実上白紙に。これは737MAXで安全上の問題が相次ぎ、そちらの解決に専念する必要性が生じたこと、新型コロナウイルス感染拡大が航空業界を襲い、これが決定打となったと報じられました。なお、737MAXの安全問題は解決しており、その後JAL(日本航空)やANA(全日空)も導入を決定しています。

 結論からすると、今回報じられたボーイングの新型機計画は「NMA」と比べ、どれくらいの差が出るのかは未知数です。報道では開発は初期段階で、社内での設計作業やエンジンメーカーとの協議が進められている状況とのことです。

 ただ現在出ている情報のなかだと2モデルともにキャパシティなど似通った部分もあります。もし報道の通り新型機開発が始まったとするならば、「NMA」の設計検討段階でのアイデアや要素が盛り込まれる可能性は大いにあるといえるでしょう。

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