70年前に相次いで起きた悲劇「角があると危ないんだ!」

 2025年10月6日、人気アニメ『エヴァンゲリオン』のラッピングを施したFDA(フジドリームエアラインズ)の旅客機が静岡空港で初披露され、多くの注目を集めました。

【よく見りゃ丸い!】「FDA×エヴァンゲリオンコラボ機」の窓を写真で見る

 こうした機体のデザインや塗装は旅の楽しさを演出しますが、乗客が何気なく眺めている「窓の形」には、空の安全の根幹にかかわる過去の悲劇から得られた教訓が隠されています。

 1950年代、世界初のジェット旅客機として華々しく就航した「コメット」は、ほどなくして空中分解事故を相次いで起こしました。

 当初は原因不明で関係者を悩ましましたが、イギリスは国の威信をかけ、海中から墜落した機体の残骸を徹底的に回収します。そして、試験用の機体を胴体丸ごと巨大な水槽に沈めて与圧と減圧を繰り返すという、前例のない疲労試験を実施しました。

 この調査から、窓など四角い開口部の「角」に力が集中する「応力集中」という現象が、金属疲労の進行を急速に促していたことが判明します。

 特に角が鋭かった天井のアンテナ用開口部から発生した微小な亀裂が、飛行を重ねるうちに成長し、最終的に機体全体の破壊につながっていると、原因を突き止めます。

 さらに、製造の効率化を追求するために採用された「パンチリベット」という工法が、リベット穴の縁に目に見えない無数の傷を作り、亀裂の起点となっていたことも突き止められました。設計上の弱点と、製造上の問題が重なった複合的な要因が悲劇を招いたのです。

 これらの教訓から、窓や非常口の角は応力がかかりにくい大きな丸みを持たせることが徹底されました。

 では、丸い窓がどのように安全性を高め、現代の快適な空の旅に繋がっているのでしょうか。

透明部分もしっかり進化! 最新型は「より大きな窓」へ

 円形や楕円形の窓は角がないため、四角い窓の角に発生していたような力の集中が起こりにくく、応力を窓の周囲へなだらかに分散させることができます。

旅客機の窓なぜ「四角」ダメ!? 発端は相次いだ“悲劇” イギ...の画像はこちら >>

ボーイング777のコックピットと客室の窓(画像:写真AC)

 加えて、窓の周りには荷重を分担する骨格部材も組み合わされ、形状と構造の両面で弱点を作らない設計が確立されました。

 一方、透明な窓ガラス(正確には樹脂)についても、現代は強度に優れた延伸アクリル製のパネルを3枚重ねた多層構造が主流です。

 通常は外側のパネルが与圧を受け持ちますが、万が一損傷しても中間パネルがその役割を担えるようになっています。そのため、パネル間の圧力を調整する小さな通気孔が開けられるなど、何重もの安全対策が施されています。

 また、設計思想そのものも大きく変わりました。かつては「運用期間中は絶対に壊れない」という前提で造られていましたが、コメットの事故以降は「亀裂はいつか必ず発生する」という前提に立ち、点検で発見しやすく、致命傷になりにくい構造にする「ダメージトレランス」という考え方が標準となりました。

 この思想と、金属疲労に極めて強いCFRP(炭素繊維複合材)のような新素材の登場が、現代の航空機を支えています。

 その結果、ボーイング787では安全性を損なうことなく、乗客が広い景色を楽しめる大きな窓の採用が可能になり、過去の教訓が現代の快適性向上にもつながりました。

 ちなみに、客室の窓が丸い一方でコックピットの窓が角ばっていることが多いのは、機首が客室とは異なる複雑な構造で強固に補強され、窓自体も鳥の衝突などに耐える特殊な合わせガラスで作られているためです。

 私たちが目にする丸い窓は、単なるデザインではなく、過去の悲劇から学び、安全性を追求し続けてきたエンジニアリングの歴史そのものを物語っていると言えるでしょう。

編集部おすすめ